『ジョーカー』監督、続編制作に含み!ホアキン・フェニックスが体現した“狂気とチャップリン”

インタビュー

『ジョーカー』監督、続編制作に含み!ホアキン・フェニックスが体現した“狂気とチャップリン”

『ジョーカー』のトッド・フィリップス監督がビデオ会見で秘話を明かした
『ジョーカー』のトッド・フィリップス監督がビデオ会見で秘話を明かした[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

第76回ヴェネツィア国際映画祭で、アメコミ原作の作品として初めて最高賞にあたる金獅子賞に輝いた『ジョーカー』(10月4日公開)。ジョーカーといえば、亡き名優ヒース・レジャーをはじめ、数多くの俳優が演じてきたDCコミックの人気ヴィランだが、本作ではホアキン・フェニックスが同役に扮し、神がかった演技で狂気と悲哀を体現した。本作を手掛けたトッド・フィリップス監督によるビデオ通話会見が9月20日に都内で開催され、監督自身の言葉によって撮影秘話が明かされた。

コメディアンになりたかった孤独で優しい男アーサーが、なぜ悪のカリスマとなってしまったのか。ホアキンは20kg近くも減量し、研ぎ澄まされた演技を見せている。フィリップス監督は、DCコミックには描かれていないジョーカーの誕生秘話を語る本作について「DCの大きなユニバースの一部ではなく、独立した作品」と位置づけている。

「本作では、皆が知っていて、愛着を感じているジョーカーを研究し、しっかりした現実的なキャラクター像を作りだしたかった。ジョーカー役は過去にすばらしい俳優が演じているし、すばらしいコミックも描かれ、テレビ番組にもなっている。新たに描くのはチャレンジでもあり怖い気持ちもあったけど、だからこそホアキンと私は、可能な限り現実というフィルターを通して、自分たちのバージョンを作ろうとしたんだ」。

折しも会見が開催された翌日の21日は、原作コミック「バットマン」の生誕80周年を祝う「バットマンの日」で、このためにDCエンターテイメント共同発行人でアーティストのジム・リーが来日し、日本で行われた式典に参加した。「ジム・リーがアニバーサリーの式典に来るというのはおもしろいね。彼とはメールでのやりとりしかしていないけれど、『映画がとても良かった』と言ってくれた。一般的に知られているジョーカーから全てが逸脱していたにも関わらず『この映画の独特なスタイルが特に気に入った』といってくれたよ」。

時代設定を70年代後半~80年代初期に設定した主な理由についても、本作をDCのユニバースから切り離したかったからだという。「いままでの映画で観てきたジョーカーと今回のジョーカーが共存することは避けたかったので、意図的にそうしたんだ。また、『タクシードライバー』(76)や『狼たちの午後』(75)、『キング・オブ・コメディ』(83)のような時代に起こった出来事として作りたかった。当時はスタジオがキャラクターが際立つ作品を制作していた時代なので、この映画にとっても効果的だと思ったからだ」。

コメディアンになるのが夢だったアーサーだが…
コメディアンになるのが夢だったアーサーだが…[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

トッド・フィリップス監督といえば、本作の制作を務めているブラッドリー・クーパーの出世作となった爆笑コメディ「ハングオーバー」シリーズでも知られている。本作はコメディとは対局にある作品だが、喜劇と背中合わせにある悲劇について監督はこうも語っている。

「この映画で表現しようとしたことは、ホアキンの台詞が物語っている。『人生は悲劇だと思ってた。だが、いまわかった、僕の人生は喜劇だ』と。それは、おもしろい人たちとコメディ映画を多く作り、コミック作品の仕事もたくさんしてきたなかで僕自身が受け取った言葉でもあり、それを本作でも少し探求したいと思った」。

また劇中では、古き良きコメディ映画にもオマージュを捧げているシーンがある。たとえば、チャールズ・チャップリンの映画『モダン・タイムス』のテーマ曲「スマイル」も効果的に流される。「脚本を書いている時、何度も観た映画がある。そのなかの一つがコミックのジョーカーを創作したクリエイターも観ていたというサイレント映画の『笑う男』(28)や、チャップリンの映画だ。何故ならアーサーには少しチャップリン的な要素があると感じたから。だからチャップリンはこの映画のなかでは大きな役割を果たしていると思う」。

また、ホアキンの演じたジョーカーについて「彼はあの世代では最も優れた俳優だといつも思っていたけれど、驚きの連続だった」と賛辞を惜しまない。「言葉で説明するのは難しいけど、その演技を目の当たりにすればわかるかもしれない。見ている方は口をポカンと開けてしまうような状態になる。カメラのオペレーターに向かって『いまの見ていた?信じられない!』とつぶやいてしまったほどだ」。

マーレイ・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)の番組に呼ばれることになったアーサー
マーレイ・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)の番組に呼ばれることになったアーサー[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

また、ホアキンとロバート・デ・ニーロという当代きっての名優同士の共演シーンにもしびれる。ホアキンもフィリップス監督も、初めてデ・ニーロのオフィスに訪れた時、戸惑いを隠せなかったという。

「撮影の現場ではなく、彼のオフィスで会った時、2人ともデ・ニーロを崇拝しているからとても緊張したよ。彼と一緒に映画が作れるなんて、僕たちにとっては非現実的なことだった。2人の俳優の間に座っていた僕にとって、あの日はすばらしい一日だった。でも実際に共演シーンを撮影した時、すでにホアキンはジョーカーとして自分の世界に入り込んでいたから、演技を妨げる緊張などはまったくなかったよ」。

「続編は作らない」と一旦は明言したフィリップス監督だが、もしも、ホアキンが続編についてゴーサインを出すとしたらどうするか?と聞くと「そこは状況が変わるかな」と前向きな発言をしてくれた。「今回、ホアキンとこの映画を作れたことは、映画制作者の僕にとって、最もすばらしい経験になったと言っても過言ではないから。ホアキンと仕事ができるのであれば、なんでもやるよ。冗談ではなく、真剣に続編を作るという話はこれまで一度も話したことがないけど、もしも彼が本気で『もう一本作るべきだ』と言ったら、そこは彼と話をして本気で考えたい。それくらい彼はすばらしい俳優だから」。

すでにアカデミー賞の呼声も高い『ジョーカー』。ホアキン演じるジョーカーは、いよいよ来週、スクリーンに降臨する!

『ジョーカー』は10月4日(金)より公開
『ジョーカー』は10月4日(金)より公開[c]2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & [c]DC Comics

取材・文/山崎 伸子

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