世界へ羽ばたく『天気の子』、トロント国際映画祭で新海誠監督に突撃!「僕の意思でないものは入っていません」

インタビュー

世界へ羽ばたく『天気の子』、トロント国際映画祭で新海誠監督に突撃!「僕の意思でないものは入っていません」

第44回トロント国際映画祭では、スペシャル・プレゼンテーションとして『天気の子』(公開中)の上映が行われた。日本では現在までに興行収入127億円を突破、来年の第92回アカデミー賞の国際長編映画賞の日本代表に選出されるなど、名実ともに2019年の日本映画を代表する1本となった。『天気の子』はすでに、香港、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランドでは公開されたが、国際映画祭での上映はトロントが初という新海誠監督に話を聞いた。

国際映画祭にて初上映!『天気の子』での挑戦も明かす
国際映画祭にて初上映!『天気の子』での挑戦も明かす撮影/成田おり枝

――プレス試写でも笑いが起き、珍しいことに最後には拍手が起きました。一般上映もチケットは即完売で大変盛り上がりましたが、海外でも監督が本作で伝えたいメッセージが伝わったという感覚はありますか。

「日本の観客だとしても同じですが、100パーセント伝えたいことが伝わっているかどうかなんてわからないですよね。でも、笑ったり、泣いたりというのはすごくわかりやすい身体反応なので、映画を観てちゃんと心が動いたんだなと実感できてすごくうれしいです。上映後に行われたQ&Aの時の質問も、ひとつひとつこんな熱心に観てくれていたんだ、と幸せになりました。ただ、個人がどこまで楽しんだかというのは僕には判断できないですよね。 それは僕の映画に限らず、どの映画でもそうです。僕の知らないところで、本作について友達と熱く語り合っているのかもしれないし。動員数などを見て、楽しんでくれているからこそ動員が伸びているんだろうなぁと間接的に感じたりはできますけどね。テストのように点数で返ってくるわけではないですから」

――作品について書かれたレビューや考察、ツイートなどは気になりますか?

「ネットで作品名を検索すると、いろいろな人が様々なことを書いているのが出てくるので、ざっと読んだりはしています。『天気の子』に限らず、ファンの方々は本当にたくさんのことを考えてくれるんですね。『君の名は。』の時もそうでしたが、『ここはこういう理由で、こんなふうにしているに違いない』とか、僕が考えているよりもはるかに多くのことを考えてくれている。『そこまで深く考えてないよ』ということもたくさんあるし、単純に『それは勘違いだよ』ということもあります。映画を好きになってくれた人ほど、時間をかけて深い考察をしてくれていたりする。そういうものを目にするたびに、制作者冥利に尽きるなと思います。そのような考察を行えるのは、映画を骨の髄まで楽しんでくれているからだと思うし、いろいろな考察を邪魔したくない。今回の映画で言うと、僕は意図していなかったんですが、本作の登場人物、須賀の妻が“晴れ女”だったんじゃないかという説を考える人もいるようで、そういうふうに解釈してみると須賀のシーンのひとつひとつがちょっと違う色合いを帯びたりとか、別の納得を生んだりとかするんですよね。僕は須賀を普通の社会人で、ちょっとアウトローぶった小市民として描いて、須賀に神秘性は絡ませていないつもりだったけれど、その説は考えに考えて出てきたものだろうから、それは邪魔したくない。映画の楽しみ方は、制作者の意図を越えていくものなんだなと思います」

――映画を観て、なんと情報量が多いことか、と思いました。それは、東京の街にあるものがちゃんとそのまま描かれていて、特に日本人の目で見ると、わかりすぎて情報量が多いと感じたんです。実在する企業や商品がそのまま描かれるのは、いわゆるプロダクト・プレイスメントと呼ばれる手法ですが、どの程度監督の意志が入っているのでしょうか。

「基本的には僕の意思でないものは入っていません。脚本を書いてストーリーボードを描いた時点で映画のカットはすべて決まります。その時点で日清のカップヌードルだとか、漫画喫茶や宣伝のトラックなど、実際に必要だと思って描いています。例えば『ここでこのハンバーガーチェーンを入れたいから許可をいただけないか』という相談をして、そこから映画会社が相談に行って賛同してくれたものはプロダクト・プレイスメントをしていくし、都合がつかないところは違うものにしていくというやり方でした」

――海外の映画やドラマにはすべて実在のものが出てくるし、人名もそのまま出てきます。しかし日本ではなぜか隠されてしまっている。その挑戦に感動しました。

「多くの場合、それは“自主規制”ですよね。『入れてしまうと後々なにかのトラブルになるかもしれないから架空のものにしておきましょう。テレビ放送の時、スポンサーがバッティングするかもしれないからやめておきましょう』ということです。映画だとテレビのスポンサーは関係ないので本当は全部できるはずなんですけどね。アニメーションの場合は、企業や商品のロゴも手で描くわけで、そういうところで 著作権の問題でNGが発生するのはわからなくはないですが」

――手で描くからこそ、意図されていないものはないんだろうなと思っていたんです。

「何らかの理由なり意図は全部あります。基本的には僕が望んだものを入れています。特に日本の観客にとって、これは自分たちが住む世界の物語だと思ってほしかったんです。僕たちは、現実として企業のロゴに囲まれて生活しているわけで、それをそのまま描きたかった」

劇中で目立った企業や商品のロゴも「理由なり意図は全部あります」
劇中で目立った企業や商品のロゴも「理由なり意図は全部あります」撮影/成田おり枝

――自主規制で、なにも言わない、空気を読む、見過ごすというのは、いまの世の中にすごく起きているような気がして、この映画で帆高が自分の真実に正直にイエスと言う、前に進むというのがすごく大きな勇気に思えました。

「そういう見方をしていただけるのはうれしいです。帆高がクライマックスで叫ぶ言葉は、現実ではなかなか言えない言葉ですよね。例えば、本当に大事な自分の隣にいる人とそれ以外のたくさんの人のどちらを選ぶかと聞かれたら、自分の隣にいる人を選ぶという人は少なくないでしょう。でもそれを社会に向けて、例えばSNSで発言したとしたら、間違いだと叩かれるかもしれない。そして、自分の望みというのは大抵の場合、人の望みとぶつかるわけですよね。自分の本当の望みを大声で言うって、なかなか難しくなっていると思います。でも、少なくともエンタテインメントの世界でならそれはできるし、意外に人々はそのことに共感してくれるんじゃないかという気持ちもあった。そういう観客が少しでも多くいてくれたとしたら、帆高が言うようになんとなく息苦しかったその気分が少し晴れるんじゃないかなと思いながら彼のセリフを書きました」。

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