「寅さんは決して歳を取らない」山田洋次監督が最新作への想いを告白!
10月28日(月)から開催される第32回東京国際映画祭のオープニング作品として上映される、国民的映画シリーズの最新作『男はつらいよ お帰り、寅さん』(12月27日公開)の山田洋次監督が3日、日本外国特派員協会で行われた記者会見に出席。東京国際映画祭のプログラミング・ディレクターである久松猛朗と「Japan Now」部門のプログラミング・アドバイザーを務める安藤紘平ともに記者からの質問に答えた。
1969年の第1作公開から50周年という節目の年に、22年ぶりに制作されたシリーズ50作目となる本作について山田監督は「半世紀以上にわたって何十本もの映画を作ってきましたが、この映画の撮影中にはどんな映画になるのだろうという不安と期待がありました」と吐露。そして「完成した後に繰り返し観ながら思ったことは、この映画を作るためには50年の歳月が必要だったということ。長生きしたからこういう映画が出来たんだなっていうのがいまの感想です」と笑顔で語った。
本シリーズに欠かせない存在である俳優の渥美清が亡くなってから23年。最新作の劇中には、渥美清がまるでまだ生きているかのように映しだされている。それについて「きっと彼がこの映画を観たら『俺ビックリしたよ!』と言うでしょうね」と微笑む山田監督。「さくら役の倍賞千恵子さんをはじめ、他の俳優さんたちも歳を取っているけれど、寅さんだけは不思議に歳を取っていない。僕にとっても、寅さんを愛するファンにとっても、寅さんは決して歳を取らない人間じゃないでしょうか。そう言った意味では、マリリン・モンローやチャップリンと比較できる存在じゃないかと思います」と述べた。
その後、世界中から集まった大勢の記者からの質問に答えた山田監督。シリーズを作る難しさと、これまでで一番苦労した作品を訊かれると「観客のみなさんは、いつもの寅さんを観たいと思ってくるわけだから、その期待を裏切ってはいけないし、それと同時に裏切らなくてはいけない。それがシリーズを作る一番の難しさですね」と明かし、「一番苦労した作品は48作目。渥美さんの体調が悪くなってきて、やめたほうがいいのか作り続けるべきかと悩みました」と振り返った。
また「マドンナをどういう基準で選んできたのか?」という質問には「寅さんが恋をするのはどんな女優がいいかと、たくさんの女優の中から考えて選び出す。その仕事は僕にとって楽しい仕事です。でも実は、どんな女性でも寅さんは恋ができるんです」と笑いを誘い、また今後の展望について訊かれた現在88歳の山田監督は「自分の年のことを考えると怖くて、映画どころじゃない。でもアメリカにはクリント・イーストウッドがいて頑張っているから、僕も一緒に頑張っている。それにポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラや日本の新藤兼人のように100歳まで続けた監督がいらっしゃるので、まだまだ希望は持っていいのかなと思います」と語り、会場からは大きな拍手が。さらにシリーズ51作目を期待する声には「ありがとうございます」とにこやかな笑顔を向けていた。
今年の東京国際映画祭では本作のほかに、映画祭中盤のハイライトとなるGALAプレゼンテーションで周防正行監督の『カツベン!』(12月13日公開)が上映されるほか、「Japan Now」部門では大林宣彦監督のレトロスペクティブや、日本のアニメ・特撮を特集するなど、日本の映像文化にフォーカスを当てたラインナップが組まれている。それについて久松は「いま世界中の注目が日本に集まっている。この機会に日本の優れた映像文化を紹介して、その魅力を再発見していただくことはとても意義のあることだと思っています」と述べた。
第32回東京国際映画祭は10月28日(月)から11月5日(火)まで開催される。
取材・文/久保田 和馬