『イエスタデイ』だけじゃない!映画で描かれた◯◯がない世界 Part.1
「もしもザ・ビートルズと彼らの音楽が消えたなら…」。そんな世界を舞台にしたダニー・ボイル監督の『イエスタデイ』が公開中。売れないミュージシャンが自分の曲としてザ・ビートルズの曲を発表したらどうなるのかという”IF"の物語が展開するヒューマン・ドラマだ。何かがない世界を舞台にした物語は、”ない”ものを求める人々の姿にドラマが生まれ、”ある”ことの現実の豊かさ、もしくは危うさを浮かび上がらせる。〇〇がなくなると世界は一体どうなるのか!? 紹介していこう。
感情がない 『リベリオン -反逆者-』(02)&『ロスト・エモーション』(15)
国家が人々に精神抑制剤の服用を強制する近未来社会。”ガン=カタ”アクションの凄まじさで語られることの多いSFだが、主人公が感情を取り戻し体制に反旗を翻すドラマがあってこそバトルは熱を帯びる。同じく『ロスト・エモーション』は、感情が排除された共同体で男女が愛を知ったがゆえに選ぶラストが切ない。感情を抑制される悪夢的未来は『THX-1138』(71)でも題材になったが、いずれの作品も感情や精神の自由がいかに人間とって大切なのかという、根源的な問いを含む。
殺人がない 『デモリションマン』(93)&『マイノリティ・リポート』(02)
殺人事件が20年以上起きていない2032年の街で、共に冷凍刑から甦った20世紀の警官VS凶悪犯の死闘が展開。
銃は博物館の展示物と化しトイレット・ペーパーもなし。下品な言葉は即罰金というクリーンな社会に主人公の警官が困惑するさまが面白い。『マイノリティ・リポート』(02)も殺人発生率0%となった2054年の米都市が舞台となるが、こちらは殺人を犯すと予知された捜査官のスリリングな逃亡劇。同じ“殺人がない未来”でも、色合いはかなり異なる)バーチャル・セックスは共通だが)。
30歳以上がいない 『2300年未来への旅』(76)
23世紀、人類はドームで覆われた都市で快適に暮らし、30歳になると生まれ変わるための“火の儀式”に臨んでいた。しかし実は新生はウソ、儀式は抹殺に他ならなかった!今でこそややチープに見えるSF描写とはいえ、第49回アカデミー賞で特別業績賞(視覚効果)を獲得。リメイク企画も報じられている。
成人男性がいない 『エヴォリューション』(15)
女性と10歳前後の少年だけが暮らす島で、ひとりの少年が、母親たちが海辺で快楽にふける光景を目撃。シングルマザーたちの謎めいた行動を少しずつ見せながら、その目的や島に成人男性が存在しない理由が明かされていく。グロテスクでありつつも美しい映像、淡々とした語り口が得体の知れない恐怖を感じさせる。
植物がない 『サイレント・ランニング』(72)
”地球上には”植物がなくなった未来。この映画では、植物は地球の自然環境を再現した宇宙船のドームの中だけに残されている。ドームの破壊と地球帰還を命じられても従わず、植物に無関心な他の乗組員を殺してでも、最後まで植物を守る主人公の姿はどこか物悲しい。天才特撮マン、ダグラス・トランブルの初監督作。
貨幣がない 『TIME/タイム』(11)
遺伝子操作で肉体は25歳以降老化せず、貨幣ではなく余命=時間が通貨として使われる未来。蓄えた時間が切れた人間はその場で絶命し、時間をもて余す富裕層が若い姿で長寿をむさぼるさまは、まさに“時は金なり”。貧しい青年の理不尽な社会システムへの抵抗は、現実の経済格差へのアンチテーゼとして映る。
(Part.2に続く)
文/橋真奈美【DVD&動画配信でーた】