『ばるぼら』手塚眞監督、父との共通項は“エロティックさ”稲垣吾郎&二階堂ふみの化学反応とは?
「稲垣さんだからこそ、“男の悲しさ”を出すことができた」
異常性欲に悩まされている小説家の美倉役に稲垣吾郎、自堕落な性格の“ばるぼら”に二階堂ふみという魅力的キャストが顔を揃えた。手塚監督は「稲垣さんがこの役をやるのは、意外に感じる方もいらっしゃるかもしれませんね」と楽しそうに語り、「僕は映画好きなので、いままでも稲垣さんを俳優としてずっと見てきていました。ここ最近の何作かを観ても、稲垣さんだったら美倉役をできるだろうと確信していたし、意外性のキャスティングというよりは、『いま、彼にこの役をやってほしい』と感じたんです」と力を込める。
とりわけ『十三人の刺客』(10)、『少女』(16)での稲垣の演技が印象深いといい、「悪役もダメな男の役もできる。幅のある役をしっかりとやっていらっしゃるし、なにを観ても一生懸命にやる方なんだと感じられて、そういった役者としての姿勢にも好感を持っていた」と話す。「読書家でインテリジェンスもあって、美術や映画にも造詣が深い。なおかつ物事を冷静に見つめる客観性や上品さもあって、美倉役にはそういった感覚がすごく大事なんです。美倉に必要な要素が、すべて備わっていた。稲垣さんだからこそ、たんなる異常な男ではなく、“男の悲しさ”のようなものが出せたのではないかと思っています」と絶賛の言葉は止まらず、「いま日本で一番好きな俳優です」とも。「現場での稲垣さんは、出番以外の場面でもあまり楽屋に戻らず、映画づくりを楽しんでいらっしゃる感じがした。くつろいで伸び伸びとやられていたことを感じられて、とてもよかったなと思います」と笑顔を浮かべていた。
「二階堂さんはこの映画のミューズのような存在」
また「漫画原作があるけれど、コスプレショーのようなものにしたくなかった」という手塚監督。「衣装の柘植伊佐夫さんが『原作通りの格好、髪の色にしたい』と言ったときに、僕は『それはやめてほしい』と言ったんです。『もっと現代的な服がいい』という話をしていた」そう。
しかしながら「二階堂さんが“ばるぼら”の格好をして座った瞬間に、『あ、本物の“ばるぼら”だ』とびっくりしちゃった(笑)。『漫画通りの髪や衣装はやめよう』と必死に抵抗しようとしていたのに、もはや抵抗できなかった。二階堂さんも脚本、原作を読み込んで、すでに“ばるぼら”そのものになっていましたからね。『これでいい、これにしよう』と。その瞬間に、すべてが決まってしまいました」と興奮しきり。「彼女が“ばるぼら”のようにいろいろな才能を引き寄せてくれたようにも思う。この作品にとって、二階堂さんはまさにミューズのような存在」と大満足のキャスティングが叶ったと語る。
強力な俳優陣を得て、自身にとって特別な原作を映画化した『ばるぼら』。東京国際映画祭に向けて、手塚監督は「手塚治虫らしい作品であると同時に、手塚眞らしい作品になった。ぜひ楽しんでいただきたい」と胸を張る。スペシャルな化学反応に大いに期待したい。
取材・文/成田 おり枝