チャン・ツィイー審査委員長、東京国際映画祭の課題は「独自の位置づけをすること」
第32回東京国際映画祭(TIFF)が、11月5日に閉幕。東京国際フォーラムで本年の東京グランプリをはじめ、各賞が発表されたあと、審査員や受賞者による記者会見が行われた。コンペティション部門の最高賞である東京グランプリ/東京都知事賞をデンマーク映画『わたしの叔父さん』が受賞した理由について、チャン・ツィイー審査委員長は「答えは簡単。満場一致で一番良い作品だったから」とキッパリ答えた。
さらに総評として「コンペティション部門の作品14本はとても多様性に富んでいて、芸術性だけではなく、コメディなどもあり、多種多様な作品が選ばれていました。脚本段階から完成度が高く、役者の演技もすばらしいセレクションとなりました」と満足気だった。
また、チャン・ツィイーは「かつてカンヌ国際映画祭でも審査員を務めたことがありますが、カンヌは審査員が9名、東京国際映画祭は5名。審査員のケンカは少なかったと思います」と言って笑いをとりつつ、「映画祭がどういう特徴を提示していくかは大事なこと。今後、東京国際映画祭が、世界の映画祭のなかで、もっと独自の位置づけができるようになるといいと思います」と課題も提示した。
日本映画スプラッシュ部門の監督賞受賞作『叫び声』の渡辺紘文監督は、3年前に『プールサイドマン』(16)で同部門の作品賞を受賞している。
「私は栃木県大田原で自主映画ばかり作ってきましたが、5回目の参加となりました。僕が東京国際映画祭に参加させていただいて良かったと思ったのは、商業映画ばかりではなく、僕たちみたいな小さな自主映画も選んでいただけることです」と感謝する。
さらに今後の映画祭のあり方について問われると「いま、日本中で、若い映画の作り手たちの発表の場として、僕たちが受賞作を選んでいくという機会もあったらいいんじゃないかとも思っています」と力強い提案をしたのが頼もしかった。
続いて笑いを誘ったのは、最優秀脚本賞を受賞した『喜劇 愛妻物語』(2020年公開)の足立紳監督だ。自身のトホホな実体験をベースにした本作だが、受賞の報告については「妻にはまだ報告してなくて」と苦笑い。
「実はかばんを誰かにあずけてしまって、報告できない。でも、さっき壇上で言うべきでした。20年間、妻に浴びせられ続けた罵声がすべて本作の台詞になったので、本当にありがたかった。深く感謝しています」と“愛妻”に感謝の言葉を述べると、会場から笑いが起こった。
東京グランプリ/東京都知事賞受賞作『わたしの叔父さん』のフラレ・ピーダセン監督は、主演女優のイェデ・スナゴー、プロデューサーのマーコ・ロランセンとステージに登壇した。監督は本作について「キャラクターが牽引していく映画を作りたい」と思ったのが第一にあるが、描いた物語は、デンマークの酪農地帯における社会問題だと言う。
「田舎では、若者が町に出ていくのか、それともそこに留まるのかということ自体が問題になってきます。本作の主人公も、獣医になりたいと思うけど、それは同時に家を離れることにもなってしまいます。でも、彼女は叔父の面倒を見ないといけなかった。つまり大学に行くことで、家族を捨てていくことが試練になることもある、ということです」。
ほかにも本作では、伝統ある酪農を近代化することを迫られているデンマークの農村地域のいまを追いかけかったとも告げたあと、2026年の第25回冬季オリンピックにストックホルムが手を挙げていたことについても、皮肉を込めてこう語った。
「近代化したくても、多くの農家では資金が足りなくて、ゆくゆくは農場を閉鎖しなければいけない状況にあります。いまは2019年ですが、おそらく2026年に本作を観れば、デンマークの農家を描く歴史ものの映画として観られることになると思います」。
最後に、ピーダセン監督は、小津安二郎監督のファンだということで、『東京物語』(53)をはじめとする「紀子三部作」や『早春』(56)などが好きだと告げたあとで「小津安二郎がもしもデンマークで映画を撮ったとしたらこういう映画になるのではないかと。小津監督の語り口や手法、キャラクターの描き方などが好きです。僕はそういったさまざまな監督の影響を受けています」と会見を締めくくってくれた。
取材・文/山崎 伸子