周防正行が妻・草刈民代の舞いに感動!「この映画をやって良かったと思った瞬間」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
周防正行が妻・草刈民代の舞いに感動!「この映画をやって良かったと思った瞬間」

インタビュー

周防正行が妻・草刈民代の舞いに感動!「この映画をやって良かったと思った瞬間」

『Shall we ダンス?』(96)以来、15年ぶりに『ダンシング・チャップリン』(公開中)でタッグを組んだ周防正行監督と、妻でバレリーナの草刈民代。本作には、バレエの崇高な美しさ、チャップリンの哀愁とユーモア、そしてバレエに魂を捧げたダンサーたちの情熱が映し出されている。そこで、初日を迎えた直後のふたりを直撃し、ホットな感想を語ってもらった。

フランスの振付家ローラン・プティが、チャップリンの名作をモチーフに作り上げた同名バレエを、初演からチャップリンを踊り続けてきたルイジ・ボニーノと、草刈を迎えて周防監督が映画化した本作。チャップリン役など1人全7役を好演した草刈は、これがラストダンスとなった。周防監督は本作を、メイキング的な第一幕と、バレエ作品そのものをスタジオで撮った第ニ幕との二部構成の映画に仕上げた。

初日舞台挨拶では、観客から「ブラボー!」と喝采を浴びたふたり。周防監督は「驚きましたよ、あれは。モントリオール映画祭で見てもらった時も、一つの演目が終わった時に、『ブラボー!』って声が聞こえてドキッとしたけど、その時は海外だったしね」と感激した様子。草刈は「私は懐かしいなって。これだな!って思って、ちょっとダンサーに戻ったみたいな感じでした」と笑顔で語った。

第一幕では、ダンサーたちの熱意や主要登場人物の人となりまで余すことなく切り取られているが、周防監督は「ダンサーの情熱を伝えたいと思って編集したわけではなく、ニ幕の作品を楽しんでもらうために必要な伏線を入れただけです。でも、稽古の姿をそのまま撮ったので、その中にダンサーの姿勢が必然的に表れたのでしょう」と言う。今回はいろんな意味で「新しいことをやったという気はしないです」と監督が言うと、草刈も「これは、ふたりが今までやってきたことの延長線上にある作品です」と同意する。

そう、その一つの要素にダンサーとの信頼関係がある。ルイジ・ボニーノとは、草刈を通して旧知の仲となっていた周防監督は、「新たな関係性を築く必要性がなかった」と言う。草刈もうなづきながら、こう述べた。「他のダンサーたちも、うちの旦那さんが撮っていなかったらああいう画にはなっていなかったと思います。それにみんな『Shall we ダンス?』を知っていたし、特別な監督だと思っていたのかも(笑)。だって、かたくななプティさんが他人に泣いたところを見せるなんてありえないし、ルイジから出た言葉だってそう。『バレエダンサーは最も美しいことをする人だ』なんてこと、なかなか言わないですから。でも、あれは本音で、旦那さんのやろうとしていることを全部くみとってくれて、できることは何でも捧げたいって思ってくれた気持ちの表れなのかなって」。

第二幕では、いよいよめくるめくバレエの作品世界が繰り広げられる。とりわけ筆者の心を捉えたのは“空中のバリエーション”だ。まるで妖精のように、たおやかな舞を繰り広げる草刈の姿に思わず感涙させられた。周防監督も「あれは、編集し終わった時、本当に綺麗だなと思ったシーンです。あれを撮れただけで、この映画をやって良かったと思ったくらい。それは、物語的な文脈があって感動したのではなく、野に咲く花を見て、『綺麗だな』って思わず涙するような感じ。草刈が以前から言ってるんですが『セリフがあるものを見る時と、踊りを見る時の頭の回路って違っていて、それはもしかしたら、音楽を聴く感覚に近いのかもしれない』って。なるほどなと。音楽も理屈なしに感覚的に飛び込んでくるものだから」。

草刈は、自分自身のダンスシーンについては冷静な目を持っているようだ。「私はあのシーンを見ても、自分の踊りにしか見えないんです。でも、他の人の踊りを見て『うわ!綺麗!』って思うことはあるんです。もしも見た人が、そういうものに近いものを感じてくれたのなら嬉しいです」。

さらにこう語る。「後30年くらい経たないと、自分の踊りに感動することはないのかもしれない。でも、撮っておいてもらって良かったという思いはあります。バレエって非日常の世界観を表現しているし、肉体がすべてですから、集中力も緊張もとても密度が濃い。芝居とはまた違う部分があるんです。踊っていたその時の自分はもういません。今は変えないといけないと思っているけれど、踊っている時の神聖な感じは忘れないようにしようと思います」。そこには新たなステージに踏み出した草刈の女優としての顔があった。また、いつの日か、女優転身後の新たな草刈を撮った周防監督の映画を見られるのではないかと、期待感が胸を弾ませる。

初日の観客同様に、見た者は誰もが「ブラボー!」と歓声を贈りたくなる『ダンシング・チャップリン』。まさに本作は、美しきバレリーナと、世界で一番バレエを見てきた映画監督の15年間のパートナーシップの結晶である。是非、あなたも観客の一員として、草刈のラストダンスに酔いしれてほしい。【取材・文/ 山崎伸子】

関連作品