ジャ・ジャンクー監督、清水崇監督を激賞!次回作はホラーに?【『犬鳴村』特別対談】
「『犬鳴村』は、ホラーと社会への問いかけという組み合わせがすばらしい」(ジャンクー)
現地記者に向けて行われた清水監督の記者会見には中国全土から集まった記者たちが集結し、学生向けのティーチインでは「ホラー映画は単なる娯楽か」「映画は現実社会を反映すべきか」など次々に熱心な質問がぶつけられた。また、屋外の巨大スクリーンで開催されたワールドプレミア上映はチケット1500枚が完売。会場を埋め尽くす観客には若年層の姿が目立っていた。
『犬鳴村』に中国の若者たちが熱狂する背景には、中国映画界特有の「検閲」のシステムが影響している。幽霊や迷信などを描いた外国映画は中国国内では一般公開ができず、清水監督が手掛けてきた作品も例外ではない。それでも、ホラー映画をいかなる手段を駆使してまで観てきた中国の若者からは清水監督を支持する声が絶えない。ジャンクー監督は、そういった熱狂を生む清水監督の作品を「非常に社会的」と評価する。
ジャンクー「『呪怨』から清水監督の映画はずっと中国で人気があるのですが、残念ながらこれまでは公式に上映する機会に恵まれませんでした。それでも人気が続いているのは、やはり作品自体が優れているからだと思います。映画祭のなかで行われたメディア向け試写で『犬鳴村』を拝見した知り合いの記者は、『まさか、ホラー映画の物語に、差別など複雑な社会問題が絡み合っていくとは思わなかった』と言っていましたよ」
清水「テーマなど、この映画の社会的な部分に注目していただけるのはうれしいです!僕はホラー映画を監督することが多いので、どうしても刺激的な部分ばかりが注目されがちで…。今回、ホラーを観たくても観られない若者たちに観てもらいましたが、刺激的なだけじゃないものを見出してもらえたらうれしいですね」
ジャンクー「つい最近まで中国では、映画というのは芸術なのだ、と見られていましたが、現在は娯楽映画、いわゆるポップコーン・ムービーが主流です。その証拠に私の『帰れない二人』はやくざ映画になっていますよね(笑)。『犬鳴村』は、ホラー映画と社会への問いかけという組み合わせの妙がすばらしいと思います。私のこれからの映画のなかでも、社会問題を物語にしていくためにホラーの要素を入れるかもしれません」
清水「物語とテーマ、どちらから先に発想しているかっていうのは、自分のなかでも作る時は曖昧なんですが、そのように言っていただけて恐縮です(笑)」
「中国の映画人は、検閲の改善のために闘わなければいけない」(ジャンクー)
3D映画の台頭、IMAXやライブビューイングといった上映方式の多様化など2010年代の10年間で映画を巡る状況は大きく変化してきた。中国の映画市場は急成長を遂げ、いまやハリウッドを押しのけて世界一のマーケットへと変貌している。一方、先に挙げたようなホラー映画などは検閲の対象になり続けており、ホラー以外でも、世界的大ヒット作の『ボヘミアン・ラプソディ』(18)では、フレディ・マーキュリーのセクシュアリティを示す表現がすべて削られたことが世界的に報道された。自身も監督作が検閲の対象となった経験を持つジャンクー監督は、しばらく考え込んだあと、中国映画界の課題について話してくれた。
ジャンクー「検閲については、中国の映画監督や俳優、スタッフたちが改善のために闘わなければいけないと思います。およそ40年前までは、中国はすごく閉ざされた国だったので、それに比べればすごく進歩したと思っています。しかし、ことに映画分野においては“中国らしいスピード”でしか発展していません。いずれにせよ、我々映画人が使命感を持って、それなりの努力をしなければなにも変わらないでしょう」
清水「今回、僕の映画が中国のお客さんに受け入れてもらえるだろうかと不安でしたが、若い人たちの反応を見てホッとしました。僕が撮っているようなホラー映画を、ジャンクー監督のように社会や国と闘ってきた人が紹介してくれると説得力があってうれしいです。中国国内での受け止められ方とか、ホラーの観られ方も今後は変わっていくんでしょうね」
ジャンクー「『犬鳴村』のメディア向け試写には、連日中国の映画会社の代表がたくさん来ているそうなので、中国での上映にも大いに希望が持てると思いますよ!」
清水「ありがとうございます!上映禁止されないといいんですけどね…」
ジャンクー「上映禁止?とんでもない、私がさせませんよ(笑)」
取材・文/編集部