幻のデビュー作が30年ぶりに飛び立つ!鬼才が鮮烈な映像美で描いた“失われた映画”とは
『アイ,ロボット』(04)や『キング・オブ・エジプト』(16)など個性的な作風で一部のファンから絶大な支持を集める鬼才アレックス・プロヤス監督が、25歳の時に発表した長編劇映画デビュー作『スピリッツ・オブ・ジ・エア』が、このたびプロヤス監督自らの手によるデジタルリマスター版としてスクリーンに帰ってくる。
果てしなく広がる赤い砂漠の中に巨大な十字架を立て、隔絶された一軒家で外界を避けるように暮らしている兄妹。足の不自由な兄のフェリックスは、この場所ではないどこかへと飛び立つことを夢見ながら飛行機作りに明け暮れ、一方で偏執的な性格の妹ベティは、この場所を離れてはいけないという父の遺言を忠実に守りながら暮らしていた。そんな2人の前にある日、スミスと名乗る逃亡者が現れることに…。
1990年に行われた第1回ゆうばり国際ファタスティック映画祭で上映され、審査員特別賞を受賞。翌年に劇場公開されるや、レイトショーながら12週間にも及ぶロングランヒットを記録。しかしながら、その後DVDやブルーレイでリリースされることはなく、VHSでしか観ることができない貴重な作品に。しかもVHSも廃盤となり、近年では中古ながら高値で取引がされるなど“失われた映画”として多くの映画ファンからカルト的な注目を集めてきた。
そして近年、様々なカルト的人気作が相次いでリバイバル上映されるナカ、本作も実に30年ぶりに日本公開されることに。公開決定を機に来日を果たしたプロヤス監督は、買い付けに携わった日本の関係者にメッセージ入りの色紙をプレゼントしたという。そこには可愛らしい手書きのフェリックスのイラストと共に「日本での経験は一生忘れられない」とのメッセージも。また「この作品は30年という時間で熟成された。魅力的に感じてくれる新たなファンが生まれてきていることを直に実感している」と、デビュー作である本作への強い想い入れも語っている。
エジプトで生まれ、オーストラリアを中心にCMやミュージックビデオ監督として注目を浴びてきたプロヤス監督だけあって、本作にはその抜きんでたビジュアルセンスが余すところなく発揮されている。フェリックスが夢見る本作のもうひとつの主人公である空の存在を意識した大胆なカメラワーク、荒廃した風景とは対照的な奇抜な衣装や美術の数々。
本編はカラー作品であるが、当時のオフィシャルスチールの数々はいずれもモノクロのものばかり。これだけでも本作の奇抜さやミステリアスな雰囲気を感じることができるが、より鮮明かつ鮮烈に蘇った映像美の全貌を目の当たりにすれば、一生忘れがたい映画体験になること間違いなしだ。是非ともスクリーンで本作が30年ぶりに飛び立つ瞬間を目撃し、高揚感に満ち溢れたクライマックスの証人になってほしい。
『スピリッツ・オブ・ジ・エア』は2020年2月8日(金)より全国順次公開される。
文/久保田 和馬