【カンヌ国際映画祭】コンペティション部門、前半の注目作品は?
現地5月11日に始まった映画祭も折り返し地点にきた。20本のコンペティション作品中10本が上映され、下馬評もそろそろ上がってきているところ。話題の作品を紹介していこう。
毎日発行される情報誌で星取り表を掲載しているのは、世界の映画ジャーナリストによる「SCREEN」誌とフランスの映画ジャーナリストによる「le film frances」の2誌。それぞれの人気一番から紹介すると、「SCREEN」はベルギーのタルデンヌ兄弟の『The Kid With Bike』、「le film fances」も同じだ。タルデンヌ兄弟は二回のパルム・ドール受賞者というカンヌのお気に入り。今回も虐げられた子供を主人公とした物語であるが、いつもより少々希望よりのストーリーが嬉しい。施設に預けられた少年が、父が売ってしまった自転車を取り戻してくれた美容師とつながりを作っていくというストーリーになっている。美容師役のセシル・ド・フランスは自ら手を挙げてこの役を手に入れた。スターは使わない主義のタルデンヌ兄弟を説得しただけある抑制の利いた、しかし心動かすリアルな演技を見せている。
「SCREEN」二番目は『The ARTIST』。あまり有名ではないフランスの若手監督の作品で、前評判はないに等しかったが、上映してみると満場の拍手。一挙に賞レースに躍り出た。無声映画時代の映画界へのオマージュのような作品で、全編サイレント・モノクロで作られている。サイレント映画のスターと彼に恋するスター志願の娘の立場がトーキーの出現によって入れ替わっていく。ふたりの恋の行方と、サイレント・スターの復活やいかに、という物語で、各シーンもハリウッド名画の名シーンを彷彿とさせるという凝った作りに、映画への愛情があふれている。小難しさは一切ない作りなので賞はあげたいが、何をあげようか困るかもしれない。が、少なくとも最優秀演技犬賞パルム・ドッグだけは獲得確実である。
「le film frances」の二番手は『Habemus Papam』。イタリアのナンニ・モレッティ監督のコメディで、法王のスピーチとでもいうべき作品。新しく法王に選出された者はバチカンに集まった民衆の前でスピーチしてはじめて法王となるという決まりがあるのだという。しかし、新法王はその前に逃げ出してしまい(!?)、乱心の法王をなだめるべく呼ばれた精神科医を監督自身が演じ、皮肉たっぷりにバチカンをひっかき回す様は、非キリスト教者にはかなり笑える。
これ以外で二誌ともに評価の高いのはイギリスのリンゼイ・ラムジー監督『We need talk about kevin』。女性旅行作家が思わぬ妊娠出産で男の子を産むが、思うようにいかない子育ての果てに、成長した彼はある事件を起こす。ショッキングなストーリーではあるが、ティルダ・スウィントンが好演。社会的な問いかけのある作品だった。
評価が分かれているのはフランスの『Pollise』。警察の児童虐待防止課の刑事たちの仕事と私生活を描いたものだ。フランス人には評価が高いが、世界のジャーナリストには今ひとつ。群像劇としても社会派映画としてもなかなかの力作なのだが。今年の傾向かもしれないが、社会の中で置き去りにされがちな子供たちの問題を正面から取り上げた点で、今年を露わす一本にはなると思われる。【シネマアナリスト/まつかわゆま】