【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第17回 社交辞令禁止令。
「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の若手監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第17回は、ついつい口にしてしまう社交辞令について。
社交辞令禁止令。
自分の嫌いなところのひとつに、“安易な会話をしてしまう癖がある”ことがある。
仕事相手には「次は是非またご飯でもご一緒できたらうれしいです!」と本気で思ってもないことを言い、知り合いのカップルには「結婚することになったら真っ先に報告してよー。結婚式ビデオつくるからさ。エキストラ100人くらい入れて超本格的なの!」とこれまた適当なことを話し、友人がカフェでバイトを始めたと聞けば「今度絶対行くね!」と自分でも(具体的にいつだよ、相手も毎日ずっといるわけじゃないんだぞ)とツッコミを入れながら返答をしてしまう。
根底にあるのは嫌われたくない、空気を濁らせたくないという想いであり、それゆえにとりあえずのその場しのぎの言葉を紡いでしまうのだ。
本当、調子が良いやつだ、と自覚はある。が、そういった社交辞令は日本では蔓延していると感じておりこのままヌルッと生きてゆくのも良いかなと思っていた、そんな矢先だった。頭をガーンと打ちつけるような感覚になる出来事があった。いや、大袈裟に比喩しているのではなく実際に頭を打ちつけたのだが…。
とある短編映像をつくることになり、プロデューサーの方と初めて打ち合わせをした時のことだ。終わりに、そのまま流れで食事に行くことになった。なんやかんや雑談をし、初対面ではあったもののお酒の力も相まってお互いにプライベートなところへ話が及び出していた。
「休みは何してるんですか?」と聞かれ、昼過ぎまで寝て起きて、コンビニ弁当を食べてネット・サーフィンをして気付いたらまた寝ています、というあまりにもリアルすぎることは言えず「スポッチャとかよく行きますよ〜。身体動かすの好きなので」と多少の見栄を張りつつ答えた。「俺も運動好きですよ。じゃあこの後、スポッチャ行きます?」と言われ、「良いですね。何か対決しましょうよ」と私はまた調子よく社交辞令で答えた。
その1時間後、まさかお台場のスポッチャでセグウェイに乗っているとは思いも寄らなかったのだ。
「まつもっちゃん、全然運動神経ないじゃないですかー!」と言われたのと同時に私はバランスを崩し思いっきり地面に頭を打ちつけた。
クラクラとしながら「まさか初対面で本当に行くとは思わなかったです」と言うと「俺、言葉っていちばん大切だと思ってるんですよね。だからやりたいと思ったことは全部口に出すし、一度言ったことは絶対に何があっても行動するようにしているんです。仕事も、プライベートも」と堂々と話す彼に、私は羨望とトキメキを感じたのだった。
●松本花奈プロフィール
1998年生まれ。映像監督。主な監督作に映画『脱脱脱脱17』(16)、『キスカム! COME ON, KISS ME AGAIN!』(4月3日公開)など。監督&脚本を務めた短編映画『またね』がYouTubeで公開中。
文/松本花奈