鬼才アレックス・プロヤス監督が“幻のデビュー作”を回顧!タイトルに込められた意味とは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
鬼才アレックス・プロヤス監督が“幻のデビュー作”を回顧!タイトルに込められた意味とは?

インタビュー

鬼才アレックス・プロヤス監督が“幻のデビュー作”を回顧!タイトルに込められた意味とは?

「これは希望と絶望、その両方についての映画。どちらに寄り添うかは観客に委ねています」。『ダークシティ』(98)や『アイ、ロボット』(04)などを手掛けた近未来SFの鬼才アレックス・プロヤス監督は、公開から30年の時を経てデジタル・リマスター版としてリバイバル上映される自身の長編初監督作品『スピリッツ・オブ・ジ・エア』(2月8日公開)についてそのように語る。

『スピリッツ・オブ・ジ・エア』の公開30年を記念して、アレックス・プロヤス監督にインタビュー!
『スピリッツ・オブ・ジ・エア』の公開30年を記念して、アレックス・プロヤス監督にインタビュー![c]1988 COMPANY BIZARRE PTY LTD.

「もともとはロマン・ポランスキー監督の『袋小路』にインスパイアされ、辺鄙な場所で少数のキャラクターで成り立つ映画というコンセプトのもとに、短編として脚本を書きました。また人類初の飛行機を作ろうと実験する状況を映した映像からも影響を受けました。そこではほとんどが失敗に終わっていて、人類の成果に対する美しいメタファーのように思えました。人生を生き抜く上での、成功と失敗のメタファーです」

本作の舞台となるのは果たしなく広がる赤い砂漠のなかにぽつんとたたずむ一軒家。空を飛ぶという妄想に取り憑かれ、飛行機作りに明け暮れながらこの場所からの脱出を夢見る足の不自由な兄フェリックスと、偏執的な気質を持ち十字架に囲まれて暮らす妹ベティの前に、スミスと名乗る奇妙な逃亡者が現れるのだ。

日本では1990年の第1回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映され審査員特別賞を受賞し、その後劇場公開。レイトショー上映ながらも12週にわたるロングランを記録したものの、DVDリリースはされておらず長年にわたって観ることがで難しい“失われた映画”として映画ファンの間で語り継がれてきた一本だ。

本作は砂漠の真ん中で生きる兄妹と、彼らの前に現れた逃亡者との関係を描いたファンタジー
本作は砂漠の真ん中で生きる兄妹と、彼らの前に現れた逃亡者との関係を描いたファンタジー[c]1988 COMPANY BIZARRE PTY LTD.

そんな本作がこうして蘇るきっかけとなったのは、オーストラリアの映画会社アンブレラ・エンターテインメントからプロヤス監督のもとに届いたレストアの提案だったという。「我々は2Kでオリジナルの16ミリネガをスキャンして、音はオリジナルのドルビー・ミックス音源。この音源は公開時にも使われなかったミックスなので、今回のバージョンで初めて世に出したことになります」

「これまでのものよりも素晴らしい出来になっている」と自負するプロヤス監督は、大成功で迎えられたメルボルンでの初上映を振り返り「昔からのファンはあらためて感動していましたし、近年のファンも喜んでいました。新たなファンが生まれてきていることを実感しますし、その事実は作品が熟成されてきたということだと思います。時代を超越した場所の物語は、新たなオーディエンスにもうまく響いています」と、確かな手応えをのぞかせる。

『スピリッツ・オブ・ジ・エア』は2月8日(金)より全国順次公開
『スピリッツ・オブ・ジ・エア』は2月8日(金)より全国順次公開[c]1988 COMPANY BIZARRE PTY LTD.

本作の原題である「Spirits of the Air, Gremlins of the Clouds」に込められた意味を訊ねると「自分でも意味はわかりません(笑)」と明かすプロヤス監督。「一つの完成された詩のような状態で言葉が頭に浮かんだのです。ただ、この言葉は作品の物語にフィットすると思い、夢と失敗の二元性を表現する上で合致していると思ったのです」と語る。「本作のテーマは夢や失敗を克服することと、存在そのものに対する苦労を、重力に対する飛ぶことへの欲求で表現するということでした。夢に対する現実と責任です。そして最後には我々の愛するものへの自己犠牲でもあります」

そしてプロヤス監督は30年以上前の撮影時を振り返り「私は1か所のロケーションやミニマルなキャストという映画にインスパイアされてきましたが、実際にやってみて初めてその難しさを知りました」と吐露。「最小限の要素で映画としての興味を持続させることの難しさを知り、実際それを実現するにはものすごい技術が必要だと理解しました。とても勉強になる経験でした」と、本作が独特な作風でカルト的人気を誇るプロヤス監督にとって、その後の映画作りの強固な礎となったことをあらためて感じさせた。

文/久保田 和馬

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