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世界中の巨匠たちに愛されたヨーロッパ映画界の名優、ブルーノ・ガンツの功績を振り返る

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世界中の巨匠たちに愛されたヨーロッパ映画界の名優、ブルーノ・ガンツの功績を振り返る

『シン・レッド・ライン』(98) や『ツリー・オブ・ライフ』(11)の巨匠テレンス・マリック監督の最新作『名もなき生涯』が2月28日(金)より公開される。第二次世界大戦中、ナチスドイツに併合されたオーストリアを舞台に、愛と信念のためにヒトラーへの忠誠と兵役を拒絶し殉教したフランツ・イェーガーシュテッターという農夫の実話を描いた物語だ。

スイス出身の名優ブルーノ・ガンツは昨年惜しくも亡くなった
スイス出身の名優ブルーノ・ガンツは昨年惜しくも亡くなった写真:SPLASH/アフロ

そんな本作でルーベン判事役を演じるのは、これが遺作となったヨーロッパ映画界の名優ブルーノ・ガンツ。昨年2月16日に77歳でこの世を去った彼は、約50年間の俳優人生で120本を超える映画やテレビ作品、ドキュメンタリーに出演し、2010年には毎年名だたる映画人たちが受賞しているヨーロッパ映画賞の生涯功労賞を受賞。一周忌を迎えるこの機会に、ガンツの功績をいま一度振り返ってみたい。

【写真を見る】ブルーノ・ガンツの遺作となった、テレンス・マリックの美しき傑作『名もなき生涯』
【写真を見る】ブルーノ・ガンツの遺作となった、テレンス・マリックの美しき傑作『名もなき生涯』[c]2019 Twentieth Century Fox

1941年にスイス最大の都市チューリッヒで生まれたガンツは、1960年に映画デビューを果たすと、地元スイスをはじめ西ドイツでもテレビ映画俳優として活躍。名女優ジャンヌ・モローが監督デビューを果たした『Lumiere(原題)』(76)やエリック・ロメール監督の『O公爵夫人』(76)、ヴィム・ヴェンダース監督の『アメリカの友人』(77)などで存在感を示すと、ヴェンダース監督と再タッグを組んだ『ベルリン・天使の詩』(87)で主人公の天使ダミエルを演じ、世界的注目を浴びる。

そんな彼の代表作の一本として知られているのは、オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督がメガホンをとり、ドイツが自国の歴史に正面から向き合った意欲作『ヒトラー 最期の12日間』(04)であろう。ヒトラーの内面に迫った物語と、細かい癖や仕草まで忠実に再現したガンツの演技は高く評価されることとなり、まるでヒトラーが蘇ったかのような鬼気迫る表情は、近年ではパロディ動画となって広く知れ渡っているほどだ。

他にもガンツのフィルモグラフィーを遡ってみれば、錚々たる監督たちに愛された俳優であったことがよくわかる。ドイツの鬼才ヴェルナー・ヘルツォーク監督から

自国スイスの名匠アラン・ターネル監督、さらにはテオ・アンゲロプロス監督やフランシス・フォード・コッポラ監督、リドリー・スコット監督、ラース・フォン・トリアー監督。また世界を股にかけて活躍した彼が『バルトの楽園』(06)で日本映画に出演してくれたということも、日本の映画ファンにとっては忘れがたいできごとだといえよう。

巨匠テレンス・マリック監督が初めて実在の人物を描いた本作
巨匠テレンス・マリック監督が初めて実在の人物を描いた本作[c]2019 Twentieth Century Fox

今回の『名もなき生涯』でガンツが演じるルーベン判事は劇中の終盤に登場し、アウグスト・ディール演じる主人公フランツの運命を左右する重要な役割を担う。スクリーンに映しだされただけで圧倒的な存在感を放つその厳粛な佇まいと、視線だけで物語る姿。もっと彼の演技を見たかったと心残りに思うと同時に、最後の作品が本作で良かったと安堵してしまわずにはいられない。これまでの彼の出演作を観たことがある人もそうでない人も、ひとりでも多くの人に名優ブルーノ・ガンツの最後の勇姿を見届けてほしい。

文/久保田 和馬

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