『軽蔑』の高良健吾「涙が出たのは、廣木監督の現場が特別だから」

インタビュー

『軽蔑』の高良健吾「涙が出たのは、廣木監督の現場が特別だから」

『ノルウェイの森』(10)、『白夜行』(11)、『まほろ駅前多田便利軒』(公開中)と、話題作を放ってきた高良健吾の主演最新作は、ほとばしる愛情を描いた『軽蔑』(6月4日公開)だ。原作は、数多くの作品が映像化されてきた芥川賞作家・中上健次の最後の長編小説で、高良は鈴木杏と共に、激しくも純度の高い愛を体現した。そこで彼にインタビューし、役作りや、高良が敬愛してやまない廣木隆一監督の現場について語ってもらった。

高良が演じるのは、新宿の歌舞伎町でその日暮らしをする、借金まみれのカズこと二宮一彦。ある日、カズは借金を帳消しにしてもらえるという条件で、ポールダンスバーを強襲し、そのままダンサー・矢木真知子(鈴木杏)と駆け落ちする。ふたりはカズの故郷・和歌山県新宮市に逃亡するが、いつしか魔の手が忍び寄る。

演じた高良は、カズについて「何でこんなに愛されるんだろう」と、最初は思ったという。「でも、きっと自分の周りにもそういう人っている。だから僕は、傍から見たらありえない行動をする時も、罪悪感を持たずにやれば良いのかなと思いました。現場で感じることってたくさんあるから、あらかじめ役をあまり作らないようにしました」。

共演した鈴木杏については「度胸があり、肝が座っているのはもちろん、キャリアがあって、本当に芝居が上手」とべたぼめだ。「台本と変わったシーンがたくさんあったけど、杏ちゃんは僕が何をしても絶対に返してくれるから、すごく信頼できました」。

『M』(06)、『雷桜』(10)などで組んできた廣木監督にも、絶大な信頼感を持つ。いきなり初日から「芝居が多い。余計なことをするな。気持ちでやれ」と言われたそうだ。「廣木さんにはやっぱりバレる。本当によく見ているなあと思いました。初日だったから、怖くなりましたけど」。

廣木監督の演出の特徴は「嘘をつかせないところ」だという。「モニターを見ずに、ずっとカメラの横で役者の芝居を見ているんです。それだけにプレッシャーもあるけど、絶対に見逃さないで見てくれるという安心感があります。そして『お前から何が生まれるの?』って感じで、自分がやっている意味をすごく感じさせてくれる人。嘘をつかず、そこで感じて生まれたものに対してOKとしてくれる監督なんです。『M』をやった時、『お前の18年間が必要でお前を選んだのだから、お前がやることが正解だ』って言われて。その時に教え込まれたことは、今でも僕の役者としての軸になっています。今回もそうで、『お前が23年間生きてきて、何を感じてこのカズをやるの?』ってことなんだと思いました」。

演技についての高良の考え方はこうだ。「今は芝居の上手い下手については全く考えてなくて。上手さは30代、40代、50代でついてくれば良いんじゃないかと。それよりも、僕は今23歳で、間とかセリフの出し方とかを考えるのではなく、ただ相手のセリフをちゃんと聞いて、そこで感情が動けば良いなあと。廣木さんの『その場にいてくれたら良い』っていうのはとても難しいことだけど、それを良しとしてくれる監督の現場にいられるのは、すごく幸せなことだと思います」。

クランクアップ時には、涙が自然にあふれたとか。「杏ちゃんもそうだったと思うけど、大変な現場からやっと開放されるという思いと、終わってしまうという寂しさが相まって。廣木さんは僕にとって特別すぎるから、涙が出ちゃいました。あんなに言ってくれる監督っていないし。充実感や達成感の涙だったと思います」。

2011年、さらに大きく飛躍しようとしている高良健吾。演技について模索しつつも、最近は行くべき方向をしっかりと見極め、自身が信じる役者道を突き進んでいる。実に頼もしい。特に良き師と良き共演者と共に手掛けた『軽蔑』は、断然注目したい一作である。【取材・文/山崎伸子】

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