芦田愛菜の次は?松本人志監督作『さや侍』の天才子役・熊田聖亜って?
ドラマ「マルモのオキテ」で演技だけでなく、歌でもブレイクし、子役のトップに君臨中の芦田愛菜の勢いは止まらない。大人も顔負けの演技ができる、それでいて愛くるしい子役がまさにブームだが、そんな中、松本人志監督の第3作目『さや侍』(6月11日公開)に出演した熊田聖亜に注目してみたい。『パラダイス・キス』(6月4日公開)でもヒロインの幼少期を演じた熊田だが、本作では準主役ともいえる役どころを好演している。
『大日本人』(07)、『しんぼる』(09)など、奇想天外なワールドを見せてきた松本人志監督が最新作に選んだジャンルは時代劇。武士なのに刀を持たず、さやしか携えない侍・野見勘十郎が、脱藩の罪で捕らえられ、殿様(國村隼)から三十日の業を強いられる。この業は、母を失い、笑顔をなくした若君を一日一芸で三十日以内に笑わせることができたら無罪放免、できなければ切腹というものだった。熊田が演じるのは勘十郎の娘たえで、父親を不甲斐なく思いつつも、次第に応援するようになっていく役どころだ。
たえは毎日、殿様たちの前で父親がどんな芸をするのかを説明する狂言回し的な役で、そのハキハキした振る舞いが実に健気で胸を打つ。野見勘十郎に扮するのは、松本がプロデュースしたバラエティ番組「働くおっさん劇場」の素人男性、野見隆明だが、一発芸は爆笑まで届かない失笑ネタも数多く、だからこそ回を重ねるごとに勘十郎とたえの親子の絆を深くしていく効果を生む。冴えないトホホな父親と、利発な娘との対比も、松本監督の狙い通りだろう。
映画を見ていると、だんだんこの親子を心から応援したくなるが、クライマックスにも親子の見せ場がきちんと用意されている。ネタばれ厳禁なので詳細には触れないが、ある場面では思わず感涙させられ、慌ててハンカチを探したものだ。ここでも熊田は、野見隆明と絶妙なコンビネーションを見せている。
『さや侍』の最後はどうなるのか? 一筋縄ではいかない本作だが、ラストではしっかりと熱いメッセージが伝わってくる。体当たりの演技をした野見隆明もすごいが、その情熱を見事にすくい上げてフォローした熊田聖亜の役割も素晴らしい。そして、松本人志監督、恐るべし。オリジナリティあふれる松本風時代劇をとくとご覧あれ。【文/山崎伸子】