『人間の時間』でチャン・グンソクが王子像を脱皮?密閉空間で“本性”をさらけ出す
その甘いマスクを生かした王子様系の役柄を得意とする、俳優・歌手のチャン・グンソク。その彼が一転、クズ系のボンボン役に興じているのが、狂才キム・ギドク監督のディストピア映画『人間の時間』(公開中)だ。乗っていた船が空を飛び、未知の空間に入ってしまうという意表をつく設定の中で、アイドル俳優のイメージを覆す彼のダメ男っぷりを堪能してもらいたい!
本作の舞台は退役した軍艦。現在はクルーズ船となっているその軍艦に、見るからに素行の悪いギャング、船の中で集団レイプを図る不良たち、乗客相手に稼ぐ売春婦といった不穏な人物が乗り合わせている。そこに乗船しているのが大統領候補の有名議員で、その議員の息子アダムをチャン・グンソクが演じている。また、本作のヒロインとなるイヴには、日韓で活躍中の藤井美菜、イヴの恋人役には、キム・ギドク監督と親交の深いオダギリジョーが名を連ねている。
そんな様々な人物を乗せた軍艦が、気づけば雲の上を飛んでいる…!?いつ帰れるかもわからないノアの箱船状態となった船上で、次第に人間の本性がむき出しになり、悲惨な事件が勃発していく本作は、ベルリン国際映画祭のプレミア上映でも賛否両論を巻き起こした、過激すぎるファンタジー作品となっている。
ここで少し、チャン・グンソクについて振り返っておきたい。ヨン様以後の新たな韓流スターとして、日本でも絶大な人気を誇ったグンソクは、歌手としても活躍してきたまさにアイドル俳優。ドラマ「美男ですね」(09)や日本の人気コミックが原作の韓国映画『きみはペット』(11)、ラブコメドラマ「キレイな男」(13)などで、色男の魅力を存分に発揮してきた。日本語を話せることから、日本のバラエティ番組にも多数出演。フェミニンな色気をたたえつつ、ちょっとコミカルな美男子役に長け、そのかわいさにキュンキュンした女性も多いはず。
そんな彼も32歳となり、アイドル俳優から、持ち前の色気を生かした大人の俳優にアップデートしている。本作でも、前半こそ優しい男に見えるものの、後半はなかなかのクズっぷり。議員の父の恩恵で、荒れる船内でも悠々と生活しつつ、人間のイヤ~な本性の部分をしっかり見せてくれる。ネタバレになるので詳しくは明かせないが、甘いマスクが健在なだけに、よくぞここまで体当たり演技を!と、チャン・グンソクの熱い意気込みを感じることができる。
極限状態の中、人間がどこまで“人間”でいられるかを問われる本作。既成のイメージを払拭するかのように、やさぐれた役にとことん向き合った、これまでとは違うチャン・グンソクの表情をチェックしてほしい!
文/トライワークス