カンヌ国際映画祭、フランスの外出禁止令延長を受けて7月初旬の延期も白紙に
カンヌ国際映画祭は4月14日、延期を想定していた6月下旬から7月初旬の開催を見直すことになったと発表した。これは、前日4月13日にマクロン仏大統領が現在発出されている外出禁止令を5月11日まで延長し、大規模の集会は7月中旬まで開催を認めないとの見解を発表したことによる。カンヌ国際映画祭事務局は、「今年の映画祭が従来の形式で開催できないことは明白だ」としている。現在、開催の形を巡り国内外の専門家と検討している最中だという。
第73回カンヌ国際映画祭は本来であれば5月12日から23日まで行われる予定で、4月16日にコンペティション部門、ある視点部門などのラインナップ発表を行う予定だった。今年は、2018年の第71回で『ブラック・クランズマン』が審査員特別グランプリを受賞した映画監督のスパイク・リーが審査委員長を務めることも発表済みだった。7月中旬以降となると、バカンスシーズンに入りカンヌを訪れる観光客が増える。そのため、映画祭側は7月初旬までに行う算段でいたのだという。
また、8月以降となると例年8月下旬から9月初旬に行われるイタリアのヴェネチア国際映画祭、9月中旬のカナダでのトロント国際映画祭と日程が近づいてしまうため、作品やゲストの調整が厳しくなる。通常、カンヌ国際映画祭と同時期に行われていた監督週間や批評家週間、カンヌを訪れる多くの業界関係者が集う映画マーケットの開催可否についても未定だ。
カンヌ国際映画祭は以前からオンライン上映や配信形態に懐疑的で、コンペティション部門にNetflixやアマゾン・スタジオなどの配信系作品を含まないことを決めている。一方、ほかの映画祭はバーチャル開催も致し方ないとの見方も出ている。テキサス州オースティンで3月初旬に開催予定だったSXSWは、映画部門での上映予定作品をAmazon Prime会員向けに10日間限定で配信することを発表している。
だが、これはAmazon との配信契約ではなく、一時的な“配信料”が支払われるのみ。すでに劇場配給や他の配信プラットフォームと契約している作品は含まれない。また、10日間実質無料(Amazon Prime会員であれば追加料金なしで鑑賞できるため)で配信された作品を改めて劇場で上映する交渉は困難を極めると思われる。
SXSWのような映画祭に出品される作品は、大手スタジオによる潤沢な予算で作られた作品ではなく、インディペンデント系制作会社や個人のフィルムメイカーが手塩にかけて育ててきた作品が多い。映画祭で上映し話題を集め、劇場公開や配信事業者との契約に持ち込むために何年もの間苦労を重ねてきた結晶だ。未曾有、かつ不測の事態とはいえ、映画祭の延期にしても、伝統的な方法ではない開催方法にしても、簡単に片付けられる問題ではない。
文/平井伊都子