【追悼】原田芳雄の『大鹿村騒動記』が遺作にふさわしい理由とは

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【追悼】原田芳雄の『大鹿村騒動記』が遺作にふさわしい理由とは

長年、個性派俳優として活躍してきた原田芳雄が7月19日に上行結腸がんから併発する肺炎のために亡くなった。享年71歳。現在公開中の主演作『大鹿村騒動記』が遺作となったが、原田が信頼を置いていた阪本順治監督の記念すべき20作目で、原田自身「自らの原点を確認するために、どうしてもやっておきたい」と熱望して実現した映画だけに、俳優人生の最後を飾るにふさわしい作品となった。

阪本監督とは、『どついたるねん』(89)、『鉄拳』(90)、『ビリケン』(96)、『KT』(02)、『亡国のイージス』(05)、『座頭市 THE LAST』(10) と、これまで6本の映画でタッグを組んできたが、阪本監督が原田の主演作のメガホンをとるのは本作が初となった。監督は原田の魅力として、彼が醸し出す“独特の不良性”をあげているが、確かに本作でもテンガロンハットとサングラスの粋なファッションで大人の色気を感じさせる風祭善役は、もってこいの役どころだったに違いない。

『大鹿村騒動記』は、長野県大鹿村で300年以上続く村歌舞伎を背景に、個性豊かな村人たちの人間模様を綴った人情喜劇。脇を固める役者陣も、大楠道代、岸部一徳、佐藤浩市など阪本組の常連で、原田とも親交が深かった名優たちがこぞって参加し、映画は味わい深い人間ドラマに仕上がった。舞台挨拶では大楠が「ほぼ合宿状態で、撮影して宴会やって、また撮影しての毎日でした」と楽しそうに語っていたのも納得だ。劇中では、原田、大楠、岸部が三角関係にある熟年男女に扮し、絶妙な掛け合いを見せているが、それは一朝一夕で生まれた間合いというよりは、勝手知ったる仲間どうしならではの、あうんの呼吸のよう。本作に出演した松たか子も「原田さんの情熱や思いを、長いおつきあいの皆さんが受け取って、そのまま表現している。その関係性がすごく素敵でした」と語っていた。

それにしても、原田がこの世を旅立つのはあまりにも早すぎた。2008年に大腸がんが発覚しつつも、その後は精力的に仕事をこなし、昨年秋に撮影した本作では恰幅の良い味のある主人公を演じているし、つい先日まで放映されていた連続ドラマ「高校生レストラン」でも、松岡昌宏扮する主人公・村木新吾の父親・定俊役を元気に演じていたのに。

原田は病床にあっても、俳優スピリットを最後の最後まで燃えたぎらせていた人のようだった。阪本監督によると、『大鹿村騒動記』のように「これからも人を明るくする映画をやっていきたい」と意欲十分だったと言うし、ブルース歌手として活動していたこともあり「2月29日の誕生日にはライブをやりたい」とも語っていたようだ。

阪本監督は7月16日の初日舞台挨拶で原田が登壇できなかった理由として「階段が多いため」と明るく言い放ったが、マスコミ取材班が手にした当日の進行表には原田の名前がちゃんと入っていた。完成披露舞台挨拶では、最後の力を振り絞るようにして車椅子で姿を見せた原田だったが、きっと初日も開演間際まで登壇するつもりだったのかもしれない。最後の最後まで役者だった名優の最後の闘志がひしひしと伝わってきた。もっともっと原田の演技をたくさん見ていきたかったが、最後を飾った『大鹿村騒動記』は、様々な意味で遺作としては申し分のない作品になったと思う。俳優・原田芳雄の役者魂に心から敬意を捧げると共に、ご冥福をお祈りしたい。【文/山崎伸子】

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