『頭山』の山村浩二監督が提唱する、アニメーションを楽しく鑑賞するコツとは!?
映像業界に多大な功績を残した19世紀の写真家、エドワード・マイブリッジを題材に、“時間”という概念を描き出したショートアニメーション『マイブリッジの糸』(公開中)。そんな本作を手がけるのが『頭山』(02)や『カフカ 田舎医者』(07)などで知られるアニメーション作家・山村浩二だ。今回は山村監督に、アニメーション制作に対する独自の考えや、最新作に込めた思いについて語ってもらった。
新作を発表するたびに、こだわりの光る斬新な世界観を披露してくれる山村監督。そのアイデアやモチベーションはいつも、どこから湧いてくるのだろうか?「制作に取り組んでいると、次回作用の新しいアイデアがどんどん浮かんでくるんです。『それを早く形にしたい』『今回は使えなかった手法を次の作品で試してみたい』という思いが、作品づくりを続けるモチベーションになっていますね。そして、新作を作るたびにステップアップして、次のステージに進みたいという思いが、自分を高める良い刺激になっています」。
そんな山村監督は、制作スタイルにも独特のこだわりがあるそうだ。「アニメーションというと、最初に絵コンテを切って、細かく計画を立てたうえで作業を進めるものだと思われていますが、私の場合、突発的に思いついたアイデアなど、偶然性を積極的に取り入れるようにしています。大勢のスタッフやキャストが関わる場合より小回りがききますから(笑)。また、目指す方向をハッキリと定めたうえで、それをより良くするための瞬間的なアイデアを取りこぼさないようにも心がけています。そうやって、一つ一つのプロセスが形を成していく瞬間が感じられるのは楽しいですし、作品の全体像が見えたときは思わず興奮してしまいますね」。
『頭山』では古典落語を、『カフカ 田舎医者』では同名短編小説を題材にするなど、これまでの監督作には原作モノが多かったが、最新作『マイブリッジの糸』は完全なオリジナル・ストーリーとなっている。そんな本作には、実生活での出来事も色濃く反映されているという。「アニメーションとは、時間をコントロールするメディアでもあるので、以前から“時間”そのものをテーマにした作品を作りたいと思っていたんです。自分にも子どもができて、その成長を見守っていくなかで『時が経ってこの子が大きくなったら、いま目の前にいる赤ちゃんにはもう会えなくなるんだな』といった、“時間”に対する素朴な哲学を考えるようになったんです。劇中で描かれる『母と娘の物語』には、そんな思いが強く反映されているんですよ」。
また山村監督は、自身で制作に取り組むだけでなく、アニメーション業界の発展にも尽力しているという。具体的に、どういった活動に取り組んでいるのだろうか?「アニメーション業界を志す人はもちろん、一般の方にとっても、絶対に観ておいた方が良い、すばらしい作品は世の中にたくさんあるのですが、日本だと、それらを紹介する場所や機会があまりにも少ないんです。だからと言って、誰かが紹介してくれるのを待っていても始まらないので、『Animations』というアニメーションの評論や作品を紹介をする会を仲間内で立ち上げて、それらの作品を世に広めるための活動に取り組んでいます。また、東京藝術大学大学院で若い制作者の育成にも携わっています」。
最後に、難解なアニメーション作品を鑑賞する際のコツや、監督自身の今後の展望について聞かせてもらった。「“アニメーション”と言えば、さまざまな登場人物が出てきて物語が展開する『キャラクター・アニメーション』が主流ですが、それ以外にも、人間の感覚や感性を揺さぶるような作品は、世界にまだまだたくさんあります。ですが、いかんせん抽象的すぎて、一般受けしにくいこともまた事実です。けれども、そういった作品も小さい子どもに見せると、理屈など気にせず、ビジュアルの変化を純粋に楽しんでくれるんです。逆に大人は、何らかの意味を見出そうとするため、拒否反応を示すことが多くなってしまう。なのでアニメーションを鑑賞する際は、頭で難しく考えようとせずに、子どものように心を開いて、素直な気持ちで観てほしいですね。そして私自身、そういった作品を世の中に向けて発信していくことに、これからも取り組んでいきたいと思っています」。
山村監督の掲げるアニメーション鑑賞法は、是非、ただいま公開中の『マイブリッジの糸』を観る際に試してみてほしい。そうすれば、複雑な物語の奥に秘められた“時間”という概念に対する監督ならではメッセージを、きっと見つけ出すことができるはずだ。【六壁露伴/Movie Walker】
※また、10月8日(土)・11月26日(土)には山村浩二監督による特別講座
「コンテンポラリーアニメーション入門」が、東京藝術大学 横浜校地 馬車道校舎にて開催。
http://animation.geidai.ac.jp/ca2011/