『ヴィレッジ』(23)、『パレード』(24)など、これまで度々タッグを組んできた横浜流星と藤井道人監督。そんな二人が作り上げた映画『正体』(公開中)は、染井為人の同名小説を原作に、日本中を震撼させた殺人事件の容疑者の逃走劇を描くサスペンスドラマだ。
横浜演じる主人公の鏑木慶一は、殺人事件を起こし逮捕され、死刑判決を言い渡されるも脱走。指名手配犯となった鏑木は、死刑囚「鏑木慶一」、日雇い労働者の「ベンゾー」、フリーライターの「那須」、水産加工工場で勤務する「久間」、介護職員「桜井」と、“5つの顔”を使い分けながら日本各地で潜伏し逃亡を続ける。鏑木と出会う編集者で彼の無実を強く信じる安藤沙耶香に吉岡里帆、同じ工事現場で働き鏑木を疑う日雇い労働者の野々村和也に森本慎太郎、長野の介護施設に勤め、鏑木に恋心のような尊敬を抱く酒井舞に山田杏奈、鏑木を追う刑事、又貫征吾には山田孝之が扮し、間一髪を繰り返す鏑木の343日間と、そこで出会う人々の姿を描き出す。
MOVIE WLAKER PRESSでは、鏑木役の横浜と和也役の森本にインタビューを実施。藤井組での作品作りや共演の感想、撮影時には言えなかったことやお互いの好きな“顔”について語ってもらった。
「いろんなものを経験してきたいまだからこそ出せる『正体』だったと思います」(横浜)
――横浜さんにとってはとても思い入れの強い作品とのこと。原作や脚本で惹かれたポイントや、本作を通じて考えたことを教えてください。
横浜「原作は4年くらい前に読んでいて。『海神(わだつみ)』からも感じたのですが、染井さんの作品は読者に訴えかけるメッセージがあってすごく魅力的。なによりも着眼点がすごいと思います。未成年死刑囚が脱獄して、彼の正体がなんなのかだけではなく、逃亡先で友達ができるといった希望も感じとれる。だからと言って綺麗事では終わらない。原作では一筋縄ではいかない理不尽な世の中を投影しているような気もして、なんだかすごく考えさせられました。映画は観てくださる方に一筋の光がちゃんと照らされるような作品になっています。信じることや疑うことの大切さ、怖さなどを、たくさん感じさせるようなものになっていると思います」
森本「僕は自分の“芯”を考えました。鏑木はすごく芯があって、自分の中にある希望を信じている。僕にとって、周りからどんな目で見られても自分の信じるものを追い求められるくらいの芯はなんだろう、と考えた時に、意外とないなと思って。鏑木ほどのものは持っていないけれど、それを見つけられたり、目標にしていったりすることが、今後の人生で大事になってくるかもしれないなと思いました」
――撮影が終わり映画が完成したいま、自分のなかの“芯”は見つかりましたか?
森本「まだ答えは見つかっていません。自分の中でこれだけは譲れないことを考えた時、人生を楽しく生きることくらいしかないなと思って。でもそれだと軽すぎるかなとも感じて(笑)」
横浜「でも、それもありだよね」
森本「そうなんだよね。でも、“芯”ってなんだろうというのはすごく考えたし、今後見つけていきたいなと思っています」
――本作は『ヴィレッジ』よりも前の企画だったとのこと。藤井監督は「4年の思いが一本の映画になった」とコメントしています。横浜さんとはお互いを鼓舞し合い、たくさんの時間を過ごしていまの関係があるともおっしゃっていましたが、このタイミングで本作が完成したことをどのように受け止めていますか?
横浜「例えばもし4年前にやっていたとしても、その時にしか出せないものがきっとあったと思うんです。でも、いろんなものを経験してきたいまだからこそ出せる形があります。それが今回の『正体』だったのかなと思っています」
「藤井監督の現場は、なにをやっても大丈夫だという安心感がありました」(森本)
――森本さんが現場で見た藤井監督と横浜さんの関係性、印象はどのようなものだったのでしょうか。
森本「監督の流星くんへの信頼をすごく感じました。『もうちょっとここをこうしてほしい』というオーダーも細かくて。でもそれは、多分できるだろうと思っているからこその指示。それに全力で応える流星くんの作品にかける熱量はやっぱりすごかったです。いままで一緒にやってきたからこそのお互いの信頼はバディのような感じ。それが5つの顔の違いやストーリーを作り、たくさんのメッセージを生み出したんだと思います」
――森本さんは初の藤井組。事前に「藤井組とは」みたいなお話をする機会はあったのでしょうか?
森本「監督から『すごく言っていくんで!』とクランクイン前から言われていて。演技についてたくさんリクエストがあることは、周りのスタッフさんからも聞いていました。“粘りの藤井”だからって(笑)。『もう一回!』が多いとも言ってたかな」
横浜「口癖だからね、『もう一回!』って」
森本「気持ち的には腹をくくるというより、本当にわからないことだらけだから、手探りで入っていった感じ。でもやっぱりチームができているというのはすごく感じて。次になにを撮るのかも、監督がどんな画を求めているのかもみんなわかってるし、こっちがどんな動きをしても、なにをやっても絶対撮ってくれるよね?」
横浜「そうだね」
森本「カメラマンさんも照明部さんも録音部さんも絶対に逃さず拾ってくれるのは『マジですげえな』と思って。なにをやっても大丈夫だなという安心感があったし、入ってみなきゃわからないことってたくさんあるんだなって思ったかな」
――横浜さんが、たくさん頷いています(笑)。横浜さんにとっての藤井組の現場とはどのようなものなのでしょうか?
横浜「まず、妥協がない。ワンカットワンカットとても大切にしているし、森本くんも言っていたように、監督の中に明確な答えはあるけれど、僕たちから出たものをちゃんとすくい取ってくれるんです。そのうえで答えに導いてくれる。だから僕らはそれに従ってやっていくし、(監督の導く)能力もすごいから、僕たちも引き出されるものがある。それをより深いところまで持って行ってくれるので、“人を撮ってくれている”っていう感じがします」