『コンテイジョン』のソダーバーグ監督、誰かが僕の映画をいじったら家を燃やす
『オーシャンズ13』(07)のスティーブン・ソダーバーグ監督が、謎のウィルスの見えない恐怖に翻弄される人々を描いた『コンテイジョン』(公開中)のプロモーションで来日。ハリウッドのビッグネームがラブコールを待ちわびる人気監督にインタビューし、本作での撮影裏話から、映像作家としてのこだわり、そして気になる引退説について聞いてみた。
超強力なウィルスの蔓延でパニックとなった人々は、やがて食料などを略奪しようと暴動を起こす。日本では東日本大震災の非常時に、人々の忍耐強さや協調性が世界中で賛辞されたが、ソダーバーグ監督はそういった国民性をどう見ているのか?「自分たちが先祖から受け継いできたこととして、略奪行動は悪いこととしか思えない。今回、一つ学んだことは、マスクに関するお国柄の違いだ。アジアの方がマスクをするのは、自分の風邪を他の人に移さないためという理由だが、アメリカ人の場合は、移されるのが嫌で予防のためにマスクをするんだ」。
それとは逆に、日本では新型インフルエンザなどで第一感染者が取り沙汰されたりしがちだが、グウィネス扮する第一感染者と見られるベス・エムホフは叩かれなかった。それについてのソダーバーグ監督の見解はこうだ。「我々にしてみれば、ウィルス感染は勃発的なことで、いつ誰がそうなるかがわからない。アメリカ人は自分が既にかかっているのかもしれないという考え方をするので、そこを攻めたりはしないと思う」。
マット・デイモンとソダーバーグ監督は、今回で6度目のタッグとなったが、マットについて監督は「演技をしていると感じられないのが彼の魅力だ」と絶賛する。そんなマットは「スティーヴンの映画には贅肉が全くない」と語る。本作も見事なテンポで緊迫感に満ちた物語が進んでいくが、何と今回は編集の際にフルバージョンを20通りも作ったという。「撮った映画を再構築する形でいじっていくのはいつもやっていることだけど、今回は長さの問題があった。90分の映画にしたいと決めていたので」。
本作はマットの他、マリオン・コティヤール、ローレンス・フィッシュバーン、ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロー、ケイト・ウィンスレットなど、オールスターキャストの出演作だし、撮影は香港、シカゴ、ロンドン、ジュネーヴなど、世界各国でロケを敢行している。映像をカットする作業は容易ではなかったはずだが、完成した映画は中だるみが一切ない106分の緊迫感あふれる映画に仕上がった。彼はどんな大作でも、常に絶対的な編集権を握っているようだ。通常はプロデューサーから、編集についての横槍が入ると聞くが、「契約の問題でもないし、私に出資者を説得する力があるのかどうかもわからないけど、いつも最終的な編集の権限は自分が持ってきた。とはいえ、もしも完成した映画を誰かがいじった場合、『家を燃やすぞ!』と脅せるくらいの勢いは大事かな(笑)」。
また、度々の引退説については「まもなく引退ではなく、長い休暇に入るつもりだ」と今の胸の内を語ってくれた。「22年前(1989年の話題作『セックスと嘘とビデオテープ』を撮った頃) と比べたら映画を作るという意味では腕が長けたと思うが、今、自分にとって何が重要なのかと考えた時、答えが見つからなくて。また、今より良い形になって帰って来られるのでなければ戻らないと思う」。才能ある作家ゆえに、求めるものが大きすぎるのか!? 是非、たっぷりと充電して、また映画ファンをうならせるような快作を撮ってほしいと心から願うばかりだ。【取材・文/山崎伸子】