『けいおん!』が大人世代に支持された訳は? 山田尚子監督を直撃!

インタビュー

『けいおん!』が大人世代に支持された訳は? 山田尚子監督を直撃!

2009年から2010年にかけてテレビアニメが放送され、圧倒的な人気を獲得。劇中のバンド名“放課後ティータイム”名義で出す主題歌や劇中歌も大ヒット、関連商品の市場規模は150億円を突破するなど、数々の社会現象を巻き起こしたアニメ「けいおん!」が映画化され、現在公開中だ。

舞台は桜が丘女子高校。平沢唯、秋山澪、田井中律、琴吹紬、唯一の下級生・中野梓、5人からなるバンド“放課後ティータイム”の緩やかな部活ライフを描く物語だ。練習よりも、お茶やお菓子に夢中。他愛もないおしゃべりをしたり、学校帰りに寄り道したりと、誰もが経験したことのあるような学園生活が映し出される。映画版では、メンバーが卒業旅行でロンドンへと出発する。

男性のアニメファンはもちろんのこと、同世代の現役女子高生たちや、大人の女性からも多くの支持を受けている本作。若手女性監督・山田尚子監督の話から、ヒットの理由を探ってみたい。

目が離せないくらいにキャラクターが生き生きとしているが、どのような視点で描いているのだろう。「一番大事にしているのは、唯たちが生きている存在として感じられるような“生っぽさ”。私自身、当初、彼女たちを見つめる視線は友達感覚だったんです。でも憧れもありますし、彼女たちがどんどんまぶしくなってきて」。

高校時代の輝きに、思わず「まぶしい!」と、もだえてしまう大人世代も多いはず。さらに、校歌の響く廊下や、夕日の差す部室、ルーズリーフをちぎった手紙など、ノスタルジーをかき立てる演出がたまらない。「自分たちとシンクロしてしまいますよね。彼女たちに、そういう強い思いを背負わせるのは嫌だったんです。できる限り彼女たちには“今”を生きてほしいって。でも、どうしてもそれを見ている私たちはまぶしくなってきてしまって。夕日を差し込みたくなってしまう(笑)」。

テレビアニメ第2期で、律が「放課後は人生の無駄遣い」というセリフも印象的だ。「そうそう! 律としては、かっこつけたくて出た言葉なんですけど。その時は大事だと思わなかったことが、実はすごい大事だったと今は思います。自分自身、高校時代をもっと楽しんでおけば良かったという思いがあって。だからこそ、唯たちには楽しいことをやり尽くしてほしかった。私たちとしては、それをしっかり記録しておこうという気持ちで。唯たちの成人式に見せてあげたいな、とか(笑)」。

多くの世代の心をとらえた理由を、監督自身はどう考えているのだろう。「流行や、時代の流れにはあまり目を向けないようにしていて。それを一回経験したり、これから経験する人たちにとって、普遍的な心の動きを意識しました。日本人として通してきた筋みたいなものを大事にできれば、と思って取り組んできました」。

映画を撮り上げ、入学から卒業までを見届けた今、思うことは。「きっと、彼女たちは正しい人生経験を積んでいると思う。確かに、目に見えた成長というのは難しいけれど、彼女たちの心とか感受性はどんどん広がって、高まっていると思うので、これから先もすごく正しい形で成長して、良い女性になっていくんじゃないかな」。

監督自身、彼女たちから受けた影響を聞くと、「人に優しくなれました(笑)。本当にええ子やなあと思って。唯たちの会話の中で、人に対する思いやりの出し方もたくさん勉強しました」と、情の深さを感じられる演出を心がけてきた監督らしい一言だった。

最後に、これまで『けいおん!』を見たことがない人にメッセージをもらった。「街には可愛らしい、アイドルっぽい彼女たちの絵柄がよく出ているので、もしかしたら『これは少し近寄り難いかも』って思われているかもしれません。でも見てみたら、意外とあの子たちお馬鹿なので(笑)! 気に入っていただけたら嬉しいです」。

彼女たちのお馬鹿な愛すべき行動には、思わず吹き出してしまったり、共感するポイントがたくさん! 映画は、初めて本作に触れる人でも楽しめるように作り込まれているので、是非劇場に足を運んでもらいたい。きっと、“あの頃”の自分にも出会えるはずだから!【取材・文/成田おり枝】

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