『運命の子』で絶世の美女役を熱演したファン・ビンビン「脚本は一部しかもらえなかった」と激白
『さらば、わが愛覇王別姫』(93)のチェン・カイコー監督作『運命の子』(12月23日公開)で、悲劇のヒロイン・荘姫役を演じたファン・ビンビン。本作は、中国の歴史書・司馬遷の「史記」の「趙氏孤児」を初めて映画化した野心作だが、ビンビンは最初に脚本の一部しかもらえなかったという。その理由とは?
『運命の子』は、謀略で皆殺しにされた一族の子を巡る愛と葛藤の物語。医師の下で育てられた一族の生き残りの子供が、親の仇とも知らずに敵方の武官をもう一人の父親として慕うという運命の皮肉に、心が揺さぶられる。ビンビンは、自らを犠牲にしてまでも産まれた子供を守ろうとした母親・荘姫役を、凛として演じた。
何とも感動的な物語だが、海賊版大国と言われる中国だからか、公開前の流出を恐れたチェン・カイコー監督が、俳優にはそれぞれの出演シーンのみの脚本しか渡さなかったそうだ。「全てを知りたいと思ったら、役者全員の脚本を寄せ集めないと完全な脚本にならなかったんです。幸い、今回の映画は中国人ならなじみのある物語でしたが、不完全な台本しか手元にないから、できる役者さんじゃないと良い演技はできなかったと思います。だから、主演のグォ・ヨウさんやワン・シュエチーさんたちが、それぞれの役を個性的に演じていることにすごく感動しました」。
彼女が本作の出演を決めたのは、監督がチェン・カイコーだったことの他に、荘姫という役に魅力を感じたからだ。「中国人なら誰もが知っている荘姫という人を演じることはとてもチャレンジングなことでした。しかも妊婦役で、荘姫が産まれてくる子供のために偉大な選択をするところにすごく惹かれました。現場では、監督と忌憚のない話し合いをして役作りをしました。周りが優秀な役者さんばかりだったので、彼らとお芝居をすること自体が演技の向上につながったと思いますし、とても刺激的な現場でした」。
脚本がなくても、チェン・カイコー監督の演出は完璧だったという。「私たちが全てを把握していなくても、監督の頭の中には完璧なものがあるわけで、監督は私たちを常にコントロールされていました。また監督は自分のビジョンを伝えるのが上手で、実際に監督が演技をして見せてくださるんです。今回、妊婦の芝居もやって見せてくれましたが、面白かったですよ(笑)。実は監督は素晴らしい俳優でもあるんです。監督は知性もすごいのですが、茶目っ気もあって実に魅力的な方です」。
チェン・カイコー監督からのアドバイスで一番印象に残っている言葉とは?「女優にとって、美しさと演技の才能とでは、どちらが大事なのか?と言われました。両方大事だけど、美しさだけでは駄目なんだと。だから、演技も頑張って磨きなさいと言われ、とても嬉しかったです。そういった人生訓みたいなことを言ってくれる監督は少ないですから」。
今年10月に開催された第24回東京国際映画祭では審査員を務めたファン・ビンビン。『運命の子』の後、オダギリジョーとチャン・ドンゴンと共演した『マイウェイ 12,000キロの真実』(2012年1月14日公開)では、果敢なアクションにもトライしている。彼女が美貌と才能と両方を持ち合わせているのは周知の通りだが、大輪のバラのような佇まいでヒロインを熱演している本作はまさに必見だ。【取材・文/山崎伸子】