オダギリジョーとチャン・ドンゴン、『マイウェイ』で戦争映画を作る意味を語る
第二次世界大戦で、奇しくも日本・ソ連・ドイツと、3つの軍服を着ることになった日本人と朝鮮人の男たちの生き様を描く感動作『マイウェイ 12,000キロの真実』(1月14日公開)。『ブラザーフッド』(04)のカン・ジェギュ監督の下、過酷な撮影に挑んだオダギリジョーとチャン・ドンゴンにインタビュー。ふたりが、共演した感想や、今の時代に自分たちが戦争映画を作る意味について語ってくれた。
オダギリが扮するのは憲兵隊司令官を祖父に持つ日本人の青年・長谷川辰雄役、チャン・ドンゴンは朝鮮人の使用人一家の息子、キム・ジュンシク役に扮する。走ることが好きなふたりは、良きライバルとして少年期を過ごすが、ある事件を境に仲たがいし、その後、戦場で運命の再会を果たす。劇中の役柄さながらに、ライバルとしてお互いをどう意識しているのかをふたりに聞いてみた。オダギリは「僕がチャン・ドンゴンさんをライバルと思うわけがないじゃないですか。役者としてのあり方はもちろん、立場が違いますよ。今回、同じ作品で共演できたこと自体が僕にとって光栄だったし、身分が違うって感覚です」と苦笑いすると、ドンゴンは「そんなことないよ。ハハハ」と笑う。
オダギリは、さらにこう続けた。「だから、僕が彼より勝ってる部分があるなんて思ったこともないです。でも、同じ質問を韓国でも聞かれて、その時、ふとあることを思ったんです。飲み会の時、チャン・ドンゴンさんは気づかないうちにすごくうまく消えるんです。スマートな飲み方をちゃんとわかってるから。監督はベロベロになって朝まで飲んでしまうんですが、僕もどっちかというとそれにつき合ってしまうタイプなんです。だから、お酒の席で長くいられることに関しては勝てるかなと(笑)」。ドンゴンも「その面では間違いなくオダギリさんの方が優れています」と笑顔で語った。
ドンゴンは、撮影が始まってからは、オダギリに頼ってばかりいたという。「僕がオダギリさんと演技をする時は、ほとんどが日本語のセリフだったから、彼に依存するしかないという状況でした。監督も韓国人だから日本語のセリフについては完璧ではないし、セリフのニュアンスや発音とかについては、その都度、オダギリさんに頼るしかありませんでした。逆にオダギリさんの場合、異国での撮影だったから、日本とは違う状況に直面して疑問に思うところがあったりした時、僕にいろんな質問をされたりしました。だから、最初はライバルみたいな気持ちがあったかもしれませんが、撮影を重ねていく間に、お互いに頼り合うという関係になったと思います」。
本作で初めて戦争映画の超大作に出演したオダギリジョーは、日本と韓国の戦争映画に対する考え方が全然違うと話す。「日本では、あまり戦争映画って作らないですよね。実際、戦争との距離ってすごく開いてしまっていて、あまり現実として受け入れてないと思うんです。ただ、韓国では、北との関係もあるし、ちょうど撮影中、延坪島(ヨンピョンド)にミサイルを撃ち込まれる事件があって、人生で初めて、戦争を肌で感じたんです。また、ソウルでも一般人を含めて有事に対応する訓練をしていて、そこでもすごくショックを受けて、戦争に対する温度差を感じました」。
チャン・ドンゴンも同意見だ。「韓国の場合、朝鮮戦争を経験した世代の方々が今も生存されているし、男性なら普通は軍隊に入隊しなければいけない国でもあります。僕も、亡くなった祖父から朝鮮戦争の話を幼い頃から聞かされて育ってきたし。韓国では日常がいつも戦争の脅威にさらされているわけではないけど、世界で唯一の分断国家だから、もしかして戦争が起きるかもしれないという考えをいつも無意識に感じながら生き続けています。だから、戦争映画は国民に警戒心を持たせるという機能を果たしているんじゃないかと」。
ふたりの熱い思いの丈が詰まった『マイウェイ 12,000キロの真実』。オダギリジョーとチャン・ドンゴンは、ふたり並んだだけで画になるのだが、さらに体を張った全身全霊の演技を魅せている点が本作の最大の見どころだ。見終わった後、戦争の無残さはもちろんのこと、夢を持って生きていくことの大切さを実感する。【取材・文/山崎伸子】