『少年と自転車』のダルデンヌ兄弟「ふたりが、ある瞬間から一人の人間になる」
第64回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作『少年と自転車』(3月下旬公開)で、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟が来日し、2月10日に都内で記者会見を開催。これまで『ロゼッタ』(99)、『ある子供』(05)で二度のカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した彼らが、巧みな演出方法について語ってくれた。
親に捨てられた一人の少年と、彼の里親との心の交流を描いた本作。劇中の重要なアイテムである自転車については、兄のジャン=ピエールがこう説明してくれた。「少年シリルが自転車に乗って現れるのは、脚本段階で頭の中に浮かんだイメージでした。それは彼が子供だから。今も自転車は、子供が家から自立する手段です。自転車のおかげで彼はいろんな人と出会えたし、彼が自転車に乗る長いショットの間に、サマンサの愛を受け取るようになっていく。また、ベルギーは自転車大国で、自転車競技は国民的スポーツでもあるんです」。
役者から自然な演技を引き出す秘訣については、弟のリュックが答えてくれた。「私たちはかなりリハーサルを重ねます。今回も40日間やって、そこで喧嘩をしたり、走ったりと、肉体的な作業をやってもらいました。それを繰り返しやるうちに、俳優は自由になることができるんです。俳優どうしが体に触れた時、別の関係が生まれる。そこにカメラを持ち込み、セリフを入れていく。需要なのは、俳優が自分自身のイメージから自由になり、開放されること。我々はサッカーチームのようで、試合に入る前に何度も訓練をします」。
質問に対して、阿吽の呼吸で交互に答えるふたり。兄弟で仕事をすることについて、ジャン=ピエールはこう語ってくれた。「私たちはふたりでしか映画を作ったことがないんです。だから、ふたりで働くことのアドバンテージについて聞かれてもわからないです。ただ、私たちはふたりで仕事をしていますが、ある瞬間から一人の人間になります。一種のマシンのようにね。でも、夢見てることは、片方が働いている間に、片方は眠ってるってことかな(笑)」。
ダルデンヌ兄弟はまさにふたりで一人! これぞ最強のパートナーで、彼らが手掛けてきた秀作群は、兄弟だからこそ成せる技なのかもしれない。彼らが撮った『少年と自転車』も、セシル・ドゥ・フランスと、子役トマ・ドレのナチュラルな演技が素晴らしいお勧め映画だ。【取材・文/山崎伸子】