あのスピルバーグを唸らせる名演を見せた主演俳優は馬だった!
受賞の行方が注目を集める第84回アカデミー賞で、作品賞ほか6部門ノミネートのスティーヴン・スピルバーグ監督最新作『戦火の馬』(3月2日公開)。 第一次世界大戦中のヨーロッパを舞台に、戦争に翻弄される人々の姿を描いた本作の大きな見どころの一つと言えるのが、映画の全編にわたって登場する馬だ。
そもそも本作の映画化のきっかけは、米国演劇界の最高賞、トニー賞5部門を制覇した原作小説の舞台化作品にスピルバーグがほれ込んだことによるもの。舞台版では馬をパペットによって再現していたが、もちろん映画では本物の馬を使った。わずかな危険なシーン以外、CGを使わず、実写で撮影を行ったという。「馬がいかに表情豊かに自分の感情を深く伝えることができるのかということを知り、本当に驚かされたよ」とスピルバーグが語るように、随所で見せる馬のつぶらな瞳には、強く心打たれてしまうはずだ。
しかし、そんな馬の演技を引き出すのは、やはり易しいことではなかったようだ。本作は主人公馬ジョーイが1歳未満の子馬の頃から大人になるまでを描いているが、それぞれのシーンを撮影するために、1歳未満の子馬、1歳馬、ティーンエイジ馬、青春期の馬、そして大人の馬と、様々な馬を手配。イギリスやスペインといったヨーロッパ各地のほか、アメリカからもホーストレーナーの馬を空輸で連れて来たという。
さらに、撮影にはその日の体調や機嫌によって複数の馬の中から選ばれるが、その馬たちを同じ一頭の馬に見せるため専門のメイクアップチームまで用意した。控えの馬も脚の一本一本から顔の模様まで、全く同じものにするために、関係者の承認も必要で、途方もない時間がかけられている。馬を手なずけて演技をつけるだけでも大変なはずだが、さらに細部にまでこだわったメイクを施していたというから驚かされてしまう。
そんな数々の苦労を重ねたおかげで、スピルバーグが「辛抱強さが要求されて難しかったが、それは同時に素晴らしい体験だった」と語るように、馬たちの演技は一級の仕上がりとなっている。アカデミー賞で最優秀主演俳優賞をあげたくなってしまうほどの『戦火の馬』の馬たちの熱演に、是非注目してもらいたい。【トライワークス】