アカデミー賞の裏でうごめく恐るべきファッション業界の戦略とは?
アカデミー賞のキャンペーン活動、各賞の受賞スピーチ、そして日頃の笑顔や立ち振る舞いに至るまで、全ての行動が受賞の鍵を握るとあって、アカデミー賞授賞式の数ヶ前からノミネート者たちは緊張状態が続いているが、特に女優たちは当日身につけるファッションのことで頭を悩まし、前日まで眠れない夜を過ごすのだという。現地2月26日(日)の授賞式を前にして、ニューヨーク・ポスト紙がアカデミー賞の裏でうごめくファッション業界の戦略という実に興味深い特集をしている。
ハリウッド・レポーター誌のライターによれば、メリル・ストリープのような稀有な存在の大女優を除いて、「ワーストドレッサーに選ばれることは、女優たちにとってキャリアの失墜を意味するほど大きな意味を持ち、一方で受賞トロフィーに匹敵するくらいに大事なものが、ベストドレッサーに選ばれること」なのだという。アカデミー賞受賞者が受賞後のキャリアの変化について問われた時、そのほとんどが「以前とあまり変わらない」と答えているが、ベストドレッサー賞に選ばれることで女優のイメージががらりと変わり、主役の座が巡ってきたり、化粧品の広告塔や雑誌の表紙に選ばれるなどの変化が生まれ、キャリアが大躍進するというケースが目立っている。それゆえに、2000年代以前は自分の好きなドレスを着てレッドカーペットを歩いていたセレブたちも、暇つぶしとも言えるようなファッション評論家たちの容赦ない辛口なファッション批判を恐れるあまり、スタイリストをつけてもなおドレス選びに頭を悩ますことになった。
一方で、2002年に『チョコレート』(01)でアカデミー主演女優賞を受賞したハル・ベリーがエリー・サーブのドレスを着ていたことで、エリーが一躍ファッション業界のトップに躍り出たように、大女優に自らデザインしたドレスを着てもらうことが、莫大な広告費を払うよりも大きな宣伝効果をもたらすと確信したデザイナー側は、女優争奪戦のために莫大な資金を支払うようになった。宣伝効果が抜群なのは、二コール・キッドマン、グウィネス・パルトロー、アン・ハサウェイで、彼女たちがドレスを着てくれるだけで何億ドルという広告宣伝費が浮く計算になる。その結果、彼女たちにドレスやジュエリーが無料で提供されるのは当たり前で、デザイナー側も選ばれるために手段を選ばなくなっている、という現実が生まれている。
たとえば、クリスチャン・ディオールの広告塔を務めていたシャーリーズ・セロンが、ブランドの看板を背負って無償でディオールのドレスを着用するというケースは今や常識となっているが、そのような例外を除いて、通常、アカデミー賞授賞式のために、一人の女優のための候補となるドレス数は、第一段階で様々なブランドの中から40~80着も選ばれると言われている。
その中から信頼するスタイリストがピックアップしたドレスが最後の一着に選ばれるケースが多いため、デザイナー側にとってみれば、女優よりもスタイリストがキーパーソンとなるのは頷ける。その結果、女優に対してだけではなく、スタイリストにも莫大な資金を費やすケースも増えており、ブランドの売り込みに躍起になって、エステからフェイスアップはもちろんのこと、美容整形や脂肪吸引に至るまで、望むものを何でも提供するといった事態が起きている。
さすがにシャネルのような絶対的な存在感を持つ高級ブランドは、スター側からのオファーがあるため、そのような手段をとる必要がないようだが、なかには、実力に見合わない資金を投じて、一攫千金を狙う新進ブランドやデザイナーたちもいるという。一方で、リンジー・ローハンのようにブランドイメージを下げてしまうような女優の場合は、ブランド側から断りを入れることもあるそうで、ブランドと女優は持ちつ持たれつの、恐ろしく密着した関係にあるようだ。
今年人気なのは、まだブランドイメージがついていない『ドラゴン・タトゥーの女』(公開中)のルーニー・マーラ、『マリリン 7日間の恋』(3月24日公開)のミシェル・ウィリアムズ、『ヘルプ 心がつなぐストーリー』(3月31日公開)のジェシカ・チャステイン、そして『アーティスト』(4月7日公開)のベレニス・ぺジョだ。受賞の可能性は低いといわれている彼女たちだが、選ぶドレスによって彼女たちの未来が決まると思うと、前日まで眠れない夜を過ごすのは当然のことかもしれない。【NY在住/JUNKO】