今、注目を集める“建てない建築家”坂口恭平ってどんな人?
突然だが、新政府の初代内閣総理大臣を自称する男がいるのをご存知だろうか。その男の名は坂口恭平。彼は建築家という肩書きで紹介されることが多いが、一度も建築らしい建築を手がけたことがない。いわば“建てない建築家”だ。これを何かの冗談だと思った方もいるだろう。だがそうではない。彼は今の日本に住むこと・暮らすことに対して極めてラディカルな問いを発し続ける気鋭の建築家なのだ。
1978年生まれの坂口恭平は、早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、いわゆるホームレスたちの暮らしぶりに感銘を受ける。彼の言葉を借りれば、「最も自由に建築を実践している」のがホームレスだという。確かに彼らは自らの住む場所を自由に決定し、自らの手で住まいを作り上げ、そしていつでも好きな時に他所へ移動していくことができる。しかも、これらは限りなく低コストで実現されるのだ。そこに坂口は、資本主義的なシステムに縛られない生き方のヒントや、新しい社会を作るためのヴィジョンを見出した。現在、彼は故郷の熊本を拠点に新政府を立ち上げ、新たな社会作りの具体的な実践に乗り出している。
そんな坂口の著作「TOKYO 0円ハウス0円生活」および「隅田川のエジソン」を原作とした注目の映画『MY HOUSE』が5月26日(土)より公開されている。同作は坂口が実在のホームレスに密着して書いた原作本をもとに、ホームレスたちの定住しない生き方の意味を問う意欲作だ。監督を務めた堤幸彦は、本作でモノクロかつ音楽をほとんど用いない独特の表現方法に挑戦し、坂口のユニークな哲学を見事に映像化してみせた。私たちはこの映画から、現代における家族や自由のあり方について、実に様々な問いを受け取ることになるだろう。
6月には彼の活動を記録したドキュメンタリー映画『モバイルハウスのつくりかた』も公開されるなど、今、俄に各所から注目を集めている坂口恭平。堤幸彦が「圧倒的な天才」と評した彼の発想が、果たして本当に新たな社会を作っていく力となり得るのか、それはあなた自身の目で確かめてほしい。【トライワークス】