ミシェル・ウィリアムズ「この『テイク・ディス・ワルツ』は空虚感にどう取り組みかを描いている」
女優サラ・ポーリーが『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』(07)に次いで手がけた長編監督第2作は、結婚5年目を迎えた、とある夫婦に訪れる変化を描くラブストーリー。『マリリン 7日間の恋』(11)で第84回アカデミー主演女優賞ノミネートのミシェル・ウィリアムズがフリーランスのライター、マーゴを演じている。そんな彼女にインタビュー、作品や共演者、監督についての思いを聞いた。
――まず本作について聞かせてください
「この映画は空虚感にどう取り組むかを描いていると思う。誰もが空しさを感じているけれど、マーゴはずっとそれを埋めようとしてきた。あるいは、その存在を否定しようとしてきたの。空しさが彼女を覆い尽くそうとしている。でも彼女はまだそれと戦っているの。少女が大人になっていく時期があるわ。12歳から15歳くらいまでにね。いつもそんな時代を演じたいと思っていたけれどチャンスがなくて。この脚本を読んで、異なるタイプの成長物語だと思ったわ。少女が何かにぶつかりながら、後戻りできない、大人の女性になっていくの」
――ルー(セス・ローゲン)とダニエル(ルーク・カービー)とはどんな関係ですか?
「ルーは彼女の気持ちを抑制する。マーゴを心地良く、安心させ、安定させ、少し無気力にする。そこに偶然か、あるいは運命か、ダニエルが現れる。彼女は眠っているような状態だわ。私は彼女のことを『眠れる森の美女』や『アンナ・カレーニナ』やチャーリー・チャップリンのようだと思ったの。いろんな感情を抑えつけている。ダニエルは彼女の目を覚まし、欠けているものに気付かせる。彼といると緊張するし、そんな気持ちは続かないと思いながらも、気持ちが大きくなって、もっと強いものに変わっていく。恋しているから、自分以上の人間になったように感じるの。マーゴは求められていると感じる。何か自分以上になった感じがする。内面に何かが芽生えて、自分の何かが変わって、永久に人生が変わってしまう感じ。でもそれは数年後には色褪せていく。どう進もうとね」
――本作に参加した経緯を教えてください
「監督は全員をオーディションしたから、私はニューヨークからトロントまで車を運転して行ったの。それ自体がアドベンチャーみたいだった。友達に大事な用事だって言ったら、トロントまで退屈しないようにCDを作ってくれたわ。それを聞きながらドライブしたの。するとまるで映画みたいにトロントのビル群が現れてきたわ。全てがちょっとした魔法のようだった。サラに『あなたに会う前、演技していて、時々していたことがあるの』と話したわ。『WWSPD、つまりサラ・ポーリーならどうする?』っておまじないなの。シーンを10テイク撮っても何も閃かないことがあるでしょ。そんな時、神頼みするの。『助けて!良いものが引き出せますように!』。そして『サラ・ポーリーならこのシーンをどうするかしら?』って問いかける。もちろんそれは私の想像にすぎないわ。サラが実際にどうするかなんて、わからないもの。でもそれが正直な気持ちだった。『サラ・ポーリーならこのシーンをどうするかしら?』というのは、真実に入り込む手段だったの」
――共演したセス・ローゲンについて聞かせてください
「セスはとても愉快な人だわ。とても気さくなの。シャイな面もあるけど、相手を和ませたり、緊張していると笑わせてくれたり、励まし続けてくれる。まるで自分が面白い人間になったみたいに感じるの。最後には、自分でもコメディアンになろうかしらって思ったくらいよ。セスとはリズムを出すために少し即興演技もしたわ。別に意図したことではなかったけれど、カメラを回し続けて、少しだけ即興で演技したの。それぞれのシーンの終りにカメラをしばらく回して、セスと私の即興演技を撮影したわ」
――撮影はいかがでしたか?
「映画の準備をする方が、実際の撮影よりストレスを感じるわ。撮影は肉体的に大変なの。眠れなかったり、撮影は長時間に及ぶし。でも精神的な疲れは準備期間の方が大きい。全てに選択肢がある。まだキャラクターのことがつかめていないから、何でも可能に思えて、脳が疲れるの。疑問を投げかける期間だけど、得られる答えがとても少ないから。テーブルを囲んで読み合わせをした後に、セスと私が住んでいる家に移るの。そこから演じるキャラクターの情報をたくさん得ることができるわ。その空間にいるだけでね。その中でいろんなことを感じるの。人はどんなことを考えるのか、どんなふうに住んでいるのか。そこから発散してくる振動のようなものを感じるの。それにディテールに気を配った場所だから、撮影にとても役立つ協力者だわ」
――サラ・ポーリー監督との仕事はいかがでしたか?
「監督は、私が天涯孤独みたいな気持ちでいるとそれを調整してくれる。彼女にはそれがどういうものかがわかっているから。女優ですもの。監督に、今日起こった些細な出来事や、その日の気分を聞かれるの。すると自分の気持ちを分かち合えたような気がする。それが大きな違いを作ってくれるの」
ミシェル演じるマーゴはダニエルと過ごす時間が増え、夫ルーと正反対の彼にどんどん惹かれていってしまう。そして、どうにもならない思いが募った時、マーゴはある決断を下す。果たしてその決断とは?本作で見せるミシェルの演技力は言うまでもなく素晴らしい。そしてサラ・ポーリー監督はその実力をいかんなく本作で発揮している。特にラストシーンは秀逸だ。男と女、それぞれの視点から見せる恋物語の結末は是非とも劇場で鑑賞してほしい。【Movie Walker】