ギリギリすぎる三姉妹を演じた演技派女優たちの意外なギャップとは?
『愛の予感』(07)、『春との旅』(09)などで国際的に高く評価されている小林政広監督の最新作『ギリギリの女たち』が7月28日より公開されている。東日本大震災を機に被災地の実家で久々に再会した三姉妹が、お互いに抱えていた思いを吐き出し、ぶつかりあう姿を描いた人間ドラマだ。タイトルどおり、心身ともにギリギリの状態に置かれた姉妹に扮した渡辺真起子、中村優子、藤真美穂の演技派女優3人にインタビューし、撮影でのエピソードを聞いた。
上映時間101分でカットはわずか28カット、劇中の登場人物は3人のみという大胆な手法が用いられている本作。冒頭には3人が口をそろえて「苦労した」と語る35分・1カットの長回しがあり、その後もほぼ全編にわたって口論をするシーンの連続するため、撮影はかなり緊張感を強いられるものだったそうだ。奔放な長女役を演じた渡辺は、「とにかく毎日が濃くて、逃げ出したくなることもありました。この野郎!って(笑)。でも、どこか不思議な居心地の良さも感じていたんです。 (宮城県気仙沼市に)泊り込みでロケをしていたのですが、早朝にみんなで起きて、朝日の中を3人で現場まで歩いている時に、本当にそこで生活をしているような気持ちになりました。今、とても貴重で贅沢な時間を味わっているなって。その連帯感みたいな親密さは、映画から感じられるのではないかと思います」。
映画は三姉妹の愛憎模様を描いているが、そこから見えてくるのは傷つきやすくもたくましい、女性の赤裸々な姿。特に女そのものの姿を体現しているのが、中村が演じた次女だ。演じた中村本人が「一番好きなセリフ」だという、「生きる、働く、また男をつくる、子供産む!」と開き直ったように宣言する印象的なシーンは、どのような思いで演じていたのだろう?「最初は静かに演じていたのですが、あまりしっくりこなかったんです。そしたら監督が『突然、がらっと調子を変えてほしい』と仰ったんですね。男性からすると、女性っていつも急に泣いたり、笑ったりしているように見えていると思うんです。そんな突発的な衝動みたいなものは自分の中にもあるので、とても共感しました」。そんな劇中のセリフとリンクするかのように妊娠し、出産を8月に控えている彼女。「ギリギリといえば、(妊娠中の)今がある意味、人生で一番ギリギリの状態です(笑)。毎日が楽しくて仕方ないです」と笑ってみせた。
そんなふたりが演じる姉たちに、ひたすら翻弄される三女を演じた藤真。「憧れの方たちとの共演だったので、ずっと緊張しっぱなしでした」と言いながらも、「渡辺さんはどちらかと言うと豪快なイメージだったのですが、本当は壊れちゃうんじゃないか、というくらい繊細で驚かされてしまいました。撮影前とは180度くらい印象が変わって、ギャップ女子の代表選手ですね(笑)。そして中村さんは逆で、儚げで繊細なイメージだったのに、一番肝が据わっている。よく食べるし、毎日、こう腰に手を当てて水をがぶ飲みしたりしていて、こちらのギャップにもびっくりしました(笑)」と、先輩女優たちの意外(?)な一面も明かしてくれた。
最後に、3人に映画の見どころを聞くと、渡辺は「不格好な三人の生き様を見届けていただくことで、明日どうやって生きようか悩んでいる人も、何とかなるさ、と思っていただけたら嬉しいです」と語り、藤真も「女性の生きる全てがここにある。見て共感でき、何事に対しても何とかなるさ、ってポジティブになれる映画です」、そして中村は「全ての女性が秘めている、ブラックホールのような生命力を感じてほしい。何でも食べちゃうよー(笑)っていう」と語ってくれた。
東日本大震災が物語の背景となっており、監督が居宅を構える被災地で撮影をしたというエピソードからも、つい悲壮なイメージを抱いてしまいがちだが、映画はどこまでもポジティブに締めくくられる。辛く過酷な現実に傷つきながらも、笑って、食べて、立ち上がって生きていく女たちの力強い姿からは、壮絶なエネルギーが感じられ、きっと誰しもが激しく心を揺さぶられるはずだ。先行きが不安な現代だからこそ、是非とも多くの方に見てもらいたい作品だ。【トライワークス】