ヒロシマからフクシマへ。91歳の報道写真家・福島菊次郎ってどんな人?

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ヒロシマからフクシマへ。91歳の報道写真家・福島菊次郎ってどんな人?

生涯現役とは、まさに彼のことを指す。現在91歳で、未だ何事にもひるまず、シャッターを切り続ける孤高の報道カメラマン・福島菊次郎。彼の反骨精神あふれる作品群と、彼自身の生き様を追ったドキュメンタリー『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』が8月4日(土)から公開される。足腰は衰えても、彼のジャーナリズム精神と鋭い眼光は今も健在。その生き方は、しびれるほど粋である。

彼が最初にシャッターを切ったのは、戦後直後の焦土・広島。彼は被爆者・中村杉松氏とその家族の苦悩を、10年間撮り続けた。最初は中村氏を撮ることに戸惑いもあったようだが、ある日、中村氏から「このままでは死に切れない。仇をとってくれ」と、訴えられたことで、福島は腹をくくった。彼らを撮った「ピカドン ある原爆被災者の記録」の写真は、今見ても心にくさびを打ち付けられた気分になる。ちなみに、被爆者と真っ向から向き合った福島は、一時期、精神的にも追い込まれ、精神病院送りにもなっている。

その後、彼は、学生運動、成田国際空港建設を巡る三里塚闘争、自衛隊、水俣病、ウーマンリブ、祝島の原発問題などを、常に弱者の側から精力的に撮り続けてきた。そこで彼が見たものは、タイトルにある“ニッポンの嘘”だった。彼が追った真実の中には、隠蔽された日本の歴史の闇も含まれている。フィーチャーされているのは過去の事件だが、本作は私たちが生きている今に向けて警鐘を鳴らしていく。さらに、奇しくも映画の撮影中、3.11の東日本大震災が起こる。一連の原発事故を悲痛な思いで受け止める福島の胸中はいかばかりだったか。

本作のメガホンを取ったのは、「ガイアの夜明け」などを手掛けた長谷川三郎監督だ。カメラを回したのは是枝裕和監督作の劇映画やドキュメンタリーなどの撮影も担当してきた名手・山崎裕。彼らは、福島の過去と現在を映す中で、報道写真家の顔だけではなく、魅力的な良き父親(男手一つで3人の子供たちを育てた)としての素顔も丁寧に切り取った。何よりも彼らが福島から、報道カメラマンとしてのスピリットを受け継ごうとしている姿勢が、画面から伝わってくるところが素晴らしい。是非、多くの若者たちにも見てもらい、福島からのバトンをみんなで受け取りたいものだ。【文/山崎伸子】

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