『るろうに剣心』の蒼井優、妖艶な美女役に「満場一致のミスキャストだと思った」
佐藤健主演、人気コミックの実写映画『るろうに剣心』(8月25日公開)で、妖艶な美女・高荷恵役を演じた蒼井優にインタビュー。演じた恵は、由緒正しき医者の家系の娘だが、会津戦争で家族を亡くしてからは、生き延びる術として男をたぶらかし、アヘン作りに手を染めた悪女である。男を食ったような雌狐役で新境地を見せた蒼井だが、最初は「満場一致のミスキャストだと思いました」と語る。彼女は恵役にどうアプローチしていったのか、撮影秘話を聞いた。
メガホンを取ったのは、佐藤も蒼井も出演したNHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)の大友啓史監督。主人公は、幕末の暗殺者“人斬り抜刀斎”としての過去を持つが、今は「不殺(ころさず)」の誓いを守り続ける緋村剣心(佐藤健)。オファーをもらった時のことを、蒼井はこう振り返る。「大友監督と、佐藤健くん、他のキャストの方々のお名前を聞いて、出演を断る理由は何一つなかったんです。その後、原作の恵と自分が似ていないことに愕然とし、まずい!と思いました」。
とはいえ、役が決定してからは「とにかく原作に敬意と誠意を持って恵役をやらせていただくしかない」と、気持ちを切り替えた。「自分がプロデューサーだったら、蒼井優には絶対演じさせない役だけど、今回やらせてもらえることになったので、逆にポジティブに考えていきました。出発点がマイナスだったから、ちょっとでも加点できればと。言い訳じゃないけど、漫画が原作の映画を作るといっても、私たちがやるのは物真似じゃない。そう言い聞かせて、頑張ろうと思いました」。
恵は、自分の主人・武田観柳(香川照之)に色目を使い、剣心の優しさも利用していく。「これまで色っぽい役は声優でしかいただいたことがなくて。男の子に対して堂々とアプローチしたり、人を弄ぶ女性なんて演じたことがなくて、やれるかな?って気持ちはありましたが、相手役が佐藤くんや武井咲ちゃん、香川さんだったから、飛び込んでいくことができました」。
武井咲が扮するのは、剣心に思いを寄せるヒロインの神谷薫役だ。「私が恵役をやることで、薫が魅力的に見えればと思いました。もともと、咲ちゃんは素敵な人だから、どうやっても素敵なんですが、撮影中は、薫を引き立てるための恵ってことを考えました。大友監督からも、観柳とふたりで、“豪”のパートを背負ってほしいと言われていたんです。それをやればやるほど、薫の真っ直ぐさや純粋さ、強さが出るから、そのお手伝いができる存在になりたいと思いました」。
剣心役の佐藤については、「作品に対する姿勢が違いました」と語る。「単独主演で、これだけ大きな作品を背負える人って、覚悟が違うなと。私たちは、そういう健くんの背中を見ているから、とにかく漕げるだけ船を漕ごうってことで、みんなが団結していました。みんな等しく熱量が高かったので、そこに失礼がないように向かっていこうと思いました。すごく良いチームでした」。
蒼井優の高荷恵は、確かに意外性のあるキャスティングだった。でも、蓋を開けてみれば、狡猾だけど憎めない悪女ぶりと、根っこにある正義感と孤独感をきちんとにおわせた、実にチャーミングな恵像となっていた。実写版映画を見るうえで、一番の醍醐味は、原作のキャラクターと、演じる俳優陣の個性の化学反応を楽しむことかもしれない。そういう面で、大友啓史監督『るろうに剣心』は胸踊る快作となっている。【取材・文/山崎伸子】