徳井義実「親父の背中は大きかった」。初主演映画『莫逆家族』に込めた熱き思い

インタビュー

徳井義実「親父の背中は大きかった」。初主演映画『莫逆家族』に込めた熱き思い

田中宏の同名人気コミックを『海炭市叙景』(10)の熊切和嘉監督が実写映画化した『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(9月8日公開)。男たちの熱い生き様を度肝を抜くようなバイオレンスシーンと共に描く本作で、主演に抜擢されたのが、お笑いコンビ、チュートリアルの徳井義実だ。そこで、人生初の金髪、肉体改造に挑んで、見事に主役を演じきった徳井にインタビュー!

完成した映画の感想を聞くと、「スピード感もあって、見終わってからもいろんなことを考えさせられる映画。良い意味で心をかき乱させる映画やと思いました」と、その魅力を教えてくれた。徳井が演じるのは、10代の頃に暴走族のトップをはりながら、30歳を過ぎた今、鬱屈した毎日を送っている火野鉄。“あの頃”の自分と“今”の自分との距離。そのヒリヒリとした痛みが、見る者の心をとらえる。

なかでも“今”の自分に怒りを覚え、鉄が涙するシーンは、その痛みが強烈に伝わってくる。物語のターニングポイントとなる重要な場面となった。「あのシーンは大変やったんです。泣けないので、1時間半くらい粘って。『目薬でお願いします』って監督に言ったんですけど(笑)、『普段、思っていることを全部吐き出してください!大丈夫です!』と言われて。でも、実は僕、日々でそんなにストレスを溜めるタイプではないんですよね。ストレスになる前に、それを解消するためにはどうすれば良いかを冷静に考えるタイプなんで。なので、必死に鉄の気持ちにならなければ泣けなかったです」。

鉄は自分とは違ったタイプの男。アプローチをするうえで意識したのは、“親父”だという。「今回、親父と僕の関係を振り返った部分が、すごくあったんです。鉄も息子の周平とうまくいっていない。どうコミュニケーションをとって良いかわからないんですね。わかりますねえ、あの感じ!周平を殴るシーンでは、確実に自分の親父を思っていました。僕もしょっちゅう、殴られましたから(笑)。親父の背中は、やっぱり大きかった。今でこそ親父も丸くなって、時々メールなんかもしますけどね(笑)」。

共演者には、阿部サダヲ、大森南朋、玉山鉄二、村上淳など、日本を代表する実力派俳優が顔をそろえた。「刺激を得たというよりか、最初はものすごいプレッシャーでしたね!みんな、男として本当に格好良い。このメンバーと一緒にやらせてもらえたことは、本当に幸せでした」と絶賛するが、現場を和ませたのは、持ち前の“下ネタ”だったという。「下ネタは共通語(笑)。男だらけの現場でしたからね。下ネタには、本当に助けられたなあ」と笑う。

芸達者が集う中、印象的だった芝居を聞くと、倍償美津子の名前が挙がった。「一発、倍償さんにビンタを喰らうシーンがあるんです。そのビンタで、倍償美津子である由縁がわかるシーンになった。やっぱり、すごい役者っていうのは、ビンタ一つに愛や温かさを乗せられるんだなって。あとはクライマックスに激しいアクションを交わした村上淳さんも。あのシーンは本当に大変で!今までの仕事の中でも、3本の指に入るくらい、胸を張って『大変だった』と言えますね。寝ずに丸々2日間、雨のシーンなので、水でビショビショになりながら。とんでもなく寒いし、肉体的にも精神的にもしんどかった。でも、村上さんは、集中してるからなのか、『水なんか冷たくもない!』とばかりにピンピンしてるんですよ(笑)。僕も、しんどいなんて言っていられなかったですね」。

演じてみて感じた鉄の魅力は?「人生をかけて仲間を守ろうとするところ。僕も男として生きているので、大切な人を守っていこうと思いますけど、果たしてあそこまで極端にできるかどうか」。そして、具体的に理想とする男像を聞くと、「やっぱり親父かな」と照れ笑いを見せた。「30代の迷いや悩みを描いた映画ですが、僕も40歳を間近に控えた一人の男として、『責任ていうのを感じていかなあかんなあ』と強く思ったんです。責任を負える男。全部、背負い込める男になりたいですね」。

熱い男を演じきった今、理想の男を「親父」と話した徳井。父の大きな背中を追いかけ、迫力と深みのある映画を堂々と作り上げた。是非ともスクリーンで男の生き様を感じて取ってもらいたい。【取材・文/成田おり枝】

関連作品