『シルク・ドゥ・ソレイユ3D』の監督が意識したのは黒澤明『夢』や『不思議の国のアリス』
シルク・ドゥ・ソレイユの世界を映像で見せるという壮大なプロジェクト『シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語』(11月9日公開)。『アバター』(09)のジェームズ・キャメロン製作総指揮で、メガホンを取ったのは、『シュレック』『ナルニア国物語』シリーズを手がけたアンドリュー・アダムソン監督だ。来日したアダムソン監督にインタビューし、本来はライブであるシルク・ドゥ・ソレイユを映像化するうえでの苦労話や、撮影裏話を聞いた。
シルク・ドゥ・ソレイユのラスベガスの7つのショーを軸に、映画オリジナルの愛の物語を紡ぎ上げた本作。最初に映画化の話を持ちかけられた時、アダムソン監督は少し戸惑ったようだ。「ラスベガスのショー全部の世界観を見せたいという話だったので、大丈夫かな?と思ったんです。ショー自体が全部違うから、果たしてできるんだろうか?と。でも、自分が体験したシルク・ドゥ・ソレイユは、まるで夢みたいな感じだったから、映画もそういうふうに作れば良いのかなって。それで、黒澤明監督の『夢』(90)や、『不思議の国のアリス』を思い出して、何でもありの世界にしてみようと思ったのです」。
その後も「明確な道のりが見えなかった」と言う監督。「まずはショーのビデオから使うシーンを選んでいって、絵コンテ的につなげていきました。それを見て、編集をし直し、ストーリーも書き直して、原型みたいなものを作っていったのです。それからまた撮影、編集と、まるでワークショップをやっているような感じで、いつもと全然違うプロセスで作っていきました。いろんな人がいろんなアイデアを出して、実際に実験し、探っていくんです。それは、通常の映画を作るのと同じくらいクリエイティブな作業でした。本作は、何千人という人が関わって、できあがったわけです」。
本来はライブで楽しむシルク・ドゥ・ソレイユだが、本作のように映画として記録することを、アダムソン監督自身はどう受け止めているのだろうか?「もちろん、賛成しているから本作を作ったのです。やってみて、これはこれでありだなと。というのは、ライブと映画を見るのは、全く違う体験だから。今回は、ライブより良い体験ができる作品を作ろうとは思っていなくて、僕たちは違う体験ができるものを作ろうとしたんです」。
その違う体験については、こう説明してくれた。「映画の場合、監督の目線が見る人の目線もコントロールすることになる。実際、シルク・ドゥ・ソレイユを舞台で見ると、いろんなことが起こるから、観客はあちらこちらに目をやることになります。でも、映画では作り手の視点に制限されるんです。役者さんをクローズアップで見ることができるし、3D映像によって高さを感じたり、パフォーマーと一緒にカメラを動かすハイスピード撮影をすることで、よりスピード感を感じたりもできます。カメラを通すことで、観客席から見るのとは全く違う見方ができるというか、同じショーなのに、違う体験を提供するという意味で、映画はありだと思います」。
パフォーマーたちが、今回の映画化をどう受け止めていたのかも気になるところだ。「たぶん、パフォーマーたちは、映画を作ることによって、シルク・ドゥ・ソレイユをより多くの人に見てもらえるチャンスだと思っていると思います。どちらが良いとか悪いとかいうものではなく、二つは全く違うものだと私は考えています。それは、演劇と映画が数百年以上共存しているのと同じことです」。
最後に、シルク・ドゥ・ソレイユの一番の見どころを、監督の口から語ってもらった。「シルク・ドゥ・ソレイユは、優れたパフォーマーの集団というだけではなく、それをとてもクリエイティブな形でプレゼンテーションしているところがすごいんです。音楽やコスチューム、舞台セットも見事だし、パフォーマーたちは、アスリートでありアーティストでもあるのです。それぞれの方が、人間の限界を見せてくれるんです。そういうものを見ると、人間賛歌というか、人間は何でもできるんだという気持ちにさせてくれると思います」。
スクリーン狭しと縦横無尽に動き回る彼らのパフォーマンスは、芸術においても、人間の肉体美として見ても、頂点を極めたようなレベルのものばかりだ。それを見ると、確かに人間の無限の可能性を感じずにはいられない。そんなシルク・ドゥ・ソレイユの世界観を見事に紡ぎ上げた本作は、舞台の映像化という面でも、さらに可能性を広げた気がする。【取材・文/山崎伸子】