伊藤英明のサイコキラー役に、三池崇史監督が太鼓判!
『海猿』シリーズで国民的スターとなった伊藤英明が、貴志祐介の驚愕ミステリー小説の映画化『悪の教典』(11月10日公開)で、良き教師という仮面を被った、恐るべきシリアルキラーを熱演。これまで伊藤が演じてきた正義のヒーローと、今回の役柄の振り幅を見ると、思わずのけ反りそうになる。伊藤英明と三池監督にインタビューし、貴志祐介との共演シーンなどの撮影秘話を語ってもらった。
伊藤が演じたのは、生徒やPTA、同僚の教師からも評判の良い、人気教師ハスミンこと蓮実聖司。だが、彼の正体は、生まれながらのサイコパス(反社会性人格障害)で、恐るべき殺人鬼だった。役作りについては相当悩んだという伊藤。「サイコキラーだから、こういうふうに演じなければいけないとカテゴライズしようとしました。俺はそんなことって、演じる側は決めなくて良いのかなって思いました。極端な話、人を殺すから悪い顔をしているというふうに、小手先で演じたとしても、三池監督はそれなりに撮ってくれたとは思う。でも、そういう演技に逃げたら、僕はたぶん、これからの俳優人生が面白くないだろうし、つまんないものになるだろうなって思いました」。
伊藤は、三池監督に絶大なる信頼を置いている。「三池監督の前では上手く演じようとか、そういうことは一切なしで、一役者というよりも、一人間として、下手でも良いから、振り切ろう、やり切ろうと思いました。最初は葛藤もありましたが、裸になれた瞬間があったんです」。
三池監督も、伊藤の魅力をこう分析する。「彼は集中度合いが深いけど、深さをずっと維持するというよりも、『昨夜、あまり寝てないのかな?』って思う時とか、動物的なところがある。でも、そこがハスミンぽくて良いんです。だから今回は、できるだけシンプルにやってもらいました。ハスミンというキャラクターを新たに作り上げるんじゃなく、彼の中にあるいろんな面を自然に出してもらえたら良いなあと。日常で感じている自分の中にある怖いものとか、人間の嫌なものを、素直に隠さず、するっとやれると良いかなと。まさに彼にはもってこいの役柄でした。楽しかったです」。
劇中では、短いながらも、貴志祐介と伊藤英明の共演シーンが1コマだけある。そのシーンでセリフを追加したのは三池監督だが、伊藤はそのシーンで三池監督の愛を感じたという。「貴志先生にとって、『悪の教典』はすごく大事な作品で、きっといろんなしがらみがあったなかで、三池監督と僕に任せてくれたと思うんです。あそこで貴志先生(演じる同僚の教師)が、蓮実に『頑張ってください』と言うんですが、あのセリフは、三池監督が貴志先生の役を通して、僕にエールをくれたのかもしれないと、今になって感じています。サイコキラー役だから、サイコパスの本も読んだり、そういう映画を見たりしたけど、その時、そういうものからヒントを得ようした自分が恥ずかしくなって。とにかく、振り切るしかないと思いました」。
「三池塾に入って覚醒した感じがします」と、手応えを口にする伊藤。三池監督は蓮実聖司について、「レクター、ジョーカー、ハスミンという3大キャラです」と、『ハンニバル』シリーズや、『ダークナイト』シリーズで絶大な人気を誇るサイコキラーと並べて太鼓判を押す。「そこまで言われると嬉しいです」と、顔をくしゃっとして笑う伊藤に、三池監督はさらに賛辞を続ける。「その人でないと絶対駄目というキャラクターです。映画を作る前のキャスティング段階だと、いろんな人がいろんなアイデアを出します。実際、伊藤さんご本人も出されていたし。でも、できあがった映画を見ると、もしもハスミン役をあの人がやったら、どうなるんだろうとは絶対に思わない。ハスミンは伊藤英明でしかない。そういうキャラクターを一つの作品で作り上げたからすごい。見事でした」。
「監督のおかげです。本当に」と恐縮する伊藤の表情にも充実感がみなぎっている。『悪の教典』は、ふたりが相思相愛で作った映画なんだと改めて実感する。会見で伊藤は「『悪の教典』を見て、伊藤英明は嫌いになっても、『海猿』は嫌いにならないで」という名セリフを語ったが、二つの作品を見てからこそ、伊藤英明の役者としての真価を語れるのではないだろうか。是非、両作を見比べることをお勧めしたい。【取材・文/山崎伸子】