新鋭映画作家の登竜門で脚光を浴びた若き映画監督の正体とは!?
クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』(91)、ロバート・ロドリゲス監督の『エル・マリアッチ』(92)。今やその名前だけで観客を集めることができるスター監督たちを輩出したことでも知られる、アメリカのサンダンス映画祭で、第27回を数える2011年に脚本賞を受賞した群像劇『アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち』が、12月1日より公開されている。
初監督&初脚本作にも関わらず、脚本賞に輝いた本作は、インディペンデント映画を対象とするサンダンス映画祭のなかでも、エレン・バーキン、エレン・バースティン、トーマス・ヘイデン・チャーチ、デミ・ムーアらそうそうたるハリウッドスターが出演。特に主人公リンを演じたエレン・バーキンは監督・脚本を務めたサム・レヴィンソンから本作の構想を聞くなり、いち早く彼の才能を見抜き、自らプロデューサーを買って出たほどに、作品へ愛情を注いでいるのだ。
ここで気になるのが、エレン・バーキンほどの大女優に映画の構想を伝えられる、サム・レヴィンソン監督の立場。ごく平凡な人生を送ってきた人間では不可能なことをさらりとやってのける彼は、実はエレン・バーキンの出世作でもある『ダイナー』(82)を手がけた、バリー・レヴィンソン監督の息子なのだ。1985年生まれの彼は、父親の監督作『バンディッツ』(01)や『トラブル・イン・ハリウッド』(08)で俳優として活躍し、エレン・バーキンとの出会いのきっかけとなった『極秘指令 ドッグ×ドッグ』(09)では脚本も担当。その才能を熟知していたからこそ、エレン・バーキンは監督が22歳の時にたった一ヶ月で書き上げたという本作の脚本を読了した直後に、出演を快諾したのだ。
元夫との間に生まれた息子の結婚式に出席するため、現在の家族を連れて久々に実家へ帰った情緒不安定な女性を中心に、自分に正直に生きようとする人々が祝いの席で巻き起こす騒動を、単なるホームドラマやコメディではなく、繊細で奥深い家族の群像劇として描き出したサム・レヴィンソン監督。アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、ベルリン国際映画祭で作品賞を受賞した傑作『レインマン』(88)など、奥深いヒューマンドラマを得意とする父と同じジャンルで高い評価を得た彼だが、一方の父親であるバリー・レヴィンソン監督も70歳にしてモキュメンタリーホラーという初ジャンルに挑戦するなど、その映画に対する情熱はまさに底なしだ。そんな偉大な父親の背中を追い越す可能性の片鱗を感じさせる、サム監督の才能のきらめきを是非スクリーンで見てもらいたい。【トライワークス】