山田孝之が一人三役の異色作『ミロクローゼ』の監督が語る「常に挑戦!」
マネキンを使った異色コメディ「オー!マイキー」の石橋義正監督が、山田孝之主演で撮った映画『ミロクローゼ』(11月24日公開)は、またもや規格外(!?)の突き抜けた快作となった。構想から公開まで8年を費やした本作は、ポップでグルービーなダンスから、キレのある殺陣までを盛り込んだ、破天荒ファンタジー。山田は、本作で恋する無垢な会社員、草食系男子の悩みをバッサリ斬る青春相談員、さらわれた恋人を探す片目の浪人と、一人三役に挑んだ。石橋監督にインタビューし、その飽くなきチャレンジ精神について聞いてみた。
「最初にいろんな世界観のアイデアを思いつき、それを一つの映画にしようと思いました。最終的には三つの世界に絞り込み、それをオムニバス映画ではなく、一つの映画として見せようとしたんです。全編を一人の役者が演じることにより、映画を見終わった後で、何か一人の人物を想像できるようなまとめ方をしたいと思いました。でも、そのためには、全く異なる人物を演じ分けるという演技力が必要でした。そこで山田孝之さんにお願いしましたが、非常に良かったです。きっちり三人を演じ分けてくれて、その実験的な部分が成功したかなと思います」。
独自の石橋ワールドが炸裂した本作だが、監督はどんなクリエイターから影響を受けてきたのだろうか。「鈴木清順さん(本作に出演)、黒澤明監督、海外でしたら、スタンリー・キューブリック、ブライアン・デ・パルマ、フランシス・コッポラなど、大御所の影響は全て受けていると思います。でも、今回やってみて、つくづく感じたのは、両親の影響ですね。親が京友禅をやっていて、僕もその影響で、高校から日本画をやっていたんです。映像は大学に入ってから始めましたが、子供の頃から日本の伝統工芸を見てきたので、どうしても画が平面的な構成になるんです。絵巻物的な画が好きというか、奥行きよりも平面的なレイアウトをしてしまう。左右対称のシーンも多かったです」。
本作は2011年の香港映画祭を皮切りに、各国の映画祭で上映され、ようやく日本で凱旋公開されることになった。各国での反応はどうだったのか。「この映画のコンセプトとして、映画を鑑賞するというよりも、『ミロクローゼ』に遊びに行こうって感じで見に来てもらえたらと思っていまして。海外の人の見方は、結構それに近いものがあり、素直に楽しもうとしてくれました。リアクションも大きいから、見ていて気持ちが良かったです」。
特に、アメリカのニューヨーク・アジア映画祭ではオープニング作品に選ばれ、山田が日本人初のライジング・スター・アワードを受賞したことも記憶に新しい。山田の受賞について「非常に嬉しかったです」という。「ご本人自体は、海外や日本とかを意識していないと言っていましたが、活躍の場が広がれば広がるほど良いのではないかと。でも、それは、本作で受賞したということではなく、彼の今までの積重ねからだも思っています」。
さらに石橋監督は、山田の俳優としての姿勢に感銘を受けたそうだ。「通常、俳優なら、自分が前面に出たいという気持ちがあるんだろうけど、彼はそれよりも、監督が何を作りたいのかってことを第一に考えてくれる。作り手としてやってくれた気がするので、非常にやりやすかったです。監督と俳優という関係の溝みたいなものがなくて、一緒にものを作っているような感じでした。きっと彼はどの作品に出てもそうなんだろうなと。また、次の作品でもご一緒したいです」。
本作で、監督、脚本、美術、編集、音楽と、五足のわらじを履いた石橋監督には、やはり自分自身のオリジナルへのこだわりがある。「映画に人が来ないから、テレビや漫画の映画化というだけじゃなくて、映画を作る人も色々考えていこう!という気持ちはあります。ヒットしようがしまいが、作り手がそういう気持ちを失ってはいけない。常に挑戦です。何年かかったとしても『この作品を作るんだ』ということの方が大事じゃないかと僕は常々思っています。失敗することもあるけど、それを気にしていたら、世の中が面白くなくなるし。次から次へ新しいことをやっていかないと」。
石橋監督のクリエイターとしてのスピリットにほれぼれする。海外で多くの映画人を驚嘆させた『ミロクローゼ』とは、いったいどんな映画なのか!?刺激的でポップでお茶目、でも愛とペーソスにあふれた石橋ワールドへ是非遊びに行こう!【取材・文/山崎伸子】