込み上げる情熱!ヒュー・ジャックマン「積み上げてきたもの全てを注いだ」
伝説的ミュージカルを豪華キャストで映画化する『レ・ミゼラブル』(12月21日公開)。壮大な歌とスケールで、見る者を圧倒する本作で、主人公のジャン・バルジャンを演じるのがヒュー・ジャックマンだ。人生の苦しみと、愛することの喜びを一身に体現するバルジャン役は、役者なら誰しもがチャレンジしてみたいと思う大役であろう。来日したヒューを訪ねると、「身体的な面でも、感情面でも、今まで積み上げてきたもの全てを注ぎ込んだ。今、感謝の気持ちでいっぱいなんだ」と、演じ切った感想を吐露してくれた。
『X-メン』(00)などの映画スターであると同時に、トニー賞に輝くミュージカル俳優としても活躍するヒュー。「今まで、数々の映画に出て、舞台も経験してきた。でも、映画でのミュージカルはやったことがなかったんだ。ずっと自分の頭の中に、映画でミュージカルをやりたいという思いがあって。そんな時に、『レ・ミゼラブル』の映画化の話が動いているというのを聞きつけてね。ジャン・バルジャンというのも、本当に偉大な役柄。どうしても演じたいと思って、自分から製作のキャメロン・マッキントッシュとトム・フーパー監督に連絡を入れたんだ。オーディションしてほしいってね」と、本作への並々ならぬ情熱を語ってくれた。
やむを得ない事情で一枚のパンを盗み、19年間も監獄生活を送ることになったジャン・バルジャン。演じるに当たってこだわったのは、“時間の経過”だという。「舞台版と違って、映画では時間というものをきちんと表現できた。舞台だと、バルジャンがプロローグで出て来たと思ったら、髭をつけて、かつらを変えて、15秒くらいで歳をとってしまうよね(笑)。映画ではそういうわけにはいかない。きちんと時間を表現して、いかに強制労働が過酷で、その後、どのようにバルジャンが変わっていくのかをしっかりと描かなくてはならないんだ」。
ストイックなまでに、身体的な役作りにも励んだと続ける。「冒頭の船場のシーンでは、やせこけて、頬もこけて、目も落ち窪んでいるという姿を表現するために、30時間以上、水分を摂らずに撮影に臨んだんだ。極限まで落とし込んだ。その2日後には、市長へと変貌した様子を演じなくてはいけなくて。生涯でこんなに食べたことはないというくらい食べて、体重を増やしたんだよ!前菜をおかわりして、メインもおかわり、大きなビールを飲んだりね。82kgだった体重を、最終的には97kgくらいにはしたんじゃないかな」。
全ての歌を実際に歌いながら、生で収録を行った本作。それぞれの込み上げる感情が、ダイレクトに伝わってくる。「今回、歌や演技の準備をするに当たって、8週間から9週間ほどの時間をもらうことができて、慎重に進めることができたんだ。不安なく、自由を感じて撮影に入ることができたんだ」とヒュー。「舞台に立つと、その場を生きているような“生”の歌を表現できるわけだけれど、この映画でも、歌を生きているもの、“生”のものとして演じることができた。また、舞台だと100m先の人にも届けなければいけないけれど、映画には親密度があるよね。カメラでぐっと近くによることができるからね。今回は、映画の最も良いところと、舞台の良いところを融合させることができたんじゃないかな」と、胸を張った。
バルジャンの心のターニングポイントとなる、2つのシーンについて聞いてみた。犯罪者の烙印を押されていたバルジャンが改心を誓う「独白」のシーンでは、震えるほどの迫力と感動に満ちた歌声を披露している。「どん底にいた人物が市長にまで上り詰めるのだから、浄化的なカタルシスを表現しなければいけなかったんだ。このシーンの前はとても緊張していたんだけれど、監督から『観客の皆さんは、この歌を歌い終わったところで、9年後にはこの男が何でもできる人になっているということを見せなければいけないんだ』とアドバイスがあって。とても助けられたね。アン・ハサウェイが『夢やぶれて』を歌っているシーンもそうなんだけれど、1カットで撮影をしているんだよ」。
一方、コゼットと出会い、新たな一歩を踏み出すシーンでは、映画オリジナル曲「Suddenry」を歌い上げて、スクリーンを温かな幸福感でいっぱいにする。「素晴らしい作曲家が、僕のために歌を作ってくれるなんて、本当に光栄で、興奮したよ。この役を3ヶ月間演じているなかで、バルジャンが初めて幸福感を体験するシーンだ。『ふいに何かが始まった、ふいに幸せが訪れた』と歌うように、純粋な愛、幸福感、至福感を、彼はそこで初めて経験することができたんだ」。
“愛”こそが、人を変え、生きる希望となる。心からのメッセージが胸を打つが、彼自身も「愛のパワーを実感している」と笑顔を見せた。「いつだって、愛の力を信じているよ。ユゴーの言葉を使うならば、誰かを愛することは、神の顔を見ることと同じだということ。僕は、その言葉にとても共感するんだよ。ユゴーの生きていた時代には、神というのは教会であがめられ、とても厳かなものだったんだ。けれど、彼が言っているのはそうではなくて、神というのは、愛そのもの。だから、そこらじゅうにあふれているものなんだよ」。
常に「アリガトウ」と日本語で感謝の言葉を交えながら、インタビューに答えてくれたヒュー・ジャックマン。大スターながら、気さくで優しい笑顔とオーラで人々を包み込み、彼の周りは温かな愛でいっぱいだ。人を思いやる人間性と、豊かな経験こそが力強いジャン・バルジャンを誕生させたのだろう。是非ともスクリーンで、圧倒的な高揚感に浸ってほしい。【取材・文/成田おり枝】