狂気の爆弾少女に扮した二階堂ふみが18歳の思いを語る!「イメージを裏切ることが楽しい」
『ヒミズ』(12)で日本人初となる第68回ヴェネチア国際映画祭最優秀新人俳優賞を受賞、日本だけでなく世界にその名を轟かせた二階堂ふみ。公開作が相次ぎ、女優道を驀進中だ。2月9日(土)より公開の『脳男』では、連続爆弾魔役に扮して、息を呑むような迫力を見せつけてくれる。「見てくれる人のイメージを裏切るのが楽しい」と目を輝かせる彼女に、撮影裏話から女優としての思いまでを聞いた。
本作の原作は江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於の同名小説。天才的な知能と恐るべき身体能力を持ち、正義のためには殺人すら厭わない謎の男“脳男”(生田斗真)と、彼を追う者たちの姿を描くバイオレンスアクションだ。二階堂が演じるのは、残忍な手口で人を殺める狂気の連続爆弾犯・緑川紀子。原作では男性だった緑川だが、映画版では女性に書き換えての抜擢だった。オファーを受けた感想をこう振り返る。「(瀧本智行)監督に初めてお会いした時に、『この役は二階堂さんしかいない。二階堂さんがやるための役です』と、すごい嬉しい言葉をくださって。『うわ、頑張ろう』と思っていたら、監督は『他の女優さんだったら、イメージもあるからこんな役はやらない』とか言って。『何だよ、それ!』って思いましたね(笑)」。
絶対悪ともいえる緑川というキャラクターに、どのようにアプローチしていったのだろうか。「緑川に共感できる部分は一切なかったんです。そう思ってはいけない役。なので、緑川と私は全く違うんだ、と一線を引いてお芝居をしていました。もし共感したり、共存しようとしたら、倫理的な部分で、二階堂ふみがポロっと出てしまうと思ったんです。それが一番怖かった。二階堂ふみをシャットダウンするためにも、切り替えが必要だと思って。だからこそ、あそこまで吹っ切れたんだと思います。こういうやり方もあるんだって、また一つ学びました」。
生きている実感に飢えているような、狂気のただ中にいる女性。セリフの発し方にも、こだわりがあったという。「緑川の“舌を切る”という行動は、言葉に縛られたくないという意味合いもあって。言葉を道具としか扱わない人間で、そのなかに嘘が見え隠れしている。小説から引用して、ものをポロポロと言っているような感じを出したかったので、気持ちを乗せずに、言葉を発していきました。でも、後半になるにつれて、その嘘がなくなっていくんですね。追い詰められて、それでも突き進んで行こうとする。私は、現場に入る前に、悪役が輝いている映画を見たりしたんですが、今度は誰かに、緑川をそういう存在の一つにしてもらえたら嬉しいですね」。
『悪の教典』(12)では、伊藤英明演じるサイコパス・蓮実聖司に狙われる女子生徒役を演じた。悪に対して、理解を深めたところはあっただろうか。「悪を身に感じる役と、悪を発する役とが続いて。血が出るものが続いているんですね。『悪の教典』では、ハスミンに狙われて、恐怖というものを前にして、自分があまりにも無力だという現実を突きつけられる役。『脳男』の緑川は、また違った弱みを持っている人間。この2作品を通じて、人間は悪を持っているものというよりかは、悪に惹かれる生き物なんだなっていうことを、すごく感じたんです。無秩序というものに、若い頃は誰しもが憧れたりしてしまう。『脳男』は、人間が悪に惹かれてしまう部分も描けているし、その奥にある『正義とは』という思いも表現できていると思う」。
『ヒミズ』で、様々な感情をぶつけあった染谷将太とは、『悪の教典』『脳男』でも共演することになった。「ストーリーができたみたいですよね。『ヒミズ』のふたりが、更正して高校生になって、ハスミンの被害者になって、『脳男』でふたりともグレちゃうって(笑)。染谷君は、私にとって本当に特別な存在。初めて同年代で『ヤバイな』って思った役者さんで、唯一無二の存在です。でも、負けたくないっていう気持ちはないし、そもそも私、ライバルとかっていないんです」。
では、何が二階堂ふみを動かす原動力になっているのだろうか。「現場が楽しいということに尽きますね。役をこなすということではなく、現場に行くことで成長できるんじゃないかと思っていて。もともと映画が好きで、このお仕事を始めさせてもらったんですが、実際に映画の現場に行くようになってからは、監督がいて、スタッフがいて、みんなで一つのものを作っているということを意識するようになった。それからは、もっと映画が好きになったんです」と弾けるような笑顔を見せた。
続けて、演じることへの思いをこう明かしてくれた。「演じること自体は苦しいことですよ。難しいですから。でも、女優って、『こういう娘だと思っていたのに』というイメージを、どんどん裏切ることができる。それが楽しいですね。今回は5kgやせるのも大変だったし、眉毛もそりましたが、そういうことだって楽しい。『脳男』の後には、大河ドラマと、園子温監督の『地獄でなぜ悪い Why don’t you play in hell?』(3月公開予定)、深田晃司監督の『ほとりの朔子』(2013年内公開予定)と、怒涛の“現場3本縫い”を経験して。この3つって、どれも全然違う役柄。『おいしいな』と思いましたね(笑)」。
「緑川はしょっちゅう出会えるような役じゃない。出会えて幸運だった」と笑う。自由で伸びやか、今を思い切り楽しむ18歳。スクリーンを所狭しと暴れまくる、二階堂ふみからますます目が離せない。【取材・文/成田おり枝】