タランティーノが感謝した、オスカー助演男優賞ヴァルツの言葉とは?

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タランティーノが感謝した、オスカー助演男優賞ヴァルツの言葉とは?

第85回アカデミー賞で、見事に助演男優賞と脚本賞の2冠を獲得した『ジャンゴ 繋がれざる者』(3月1日公開)。来日したタランティーノがミニ会見に出席し、終始ニコニコ笑顔で本作の撮影秘話を語ってくれた。なかでも、同じくタランティーノの前監督作『イングロリアス・バスターズ』(09)に続き、本作で2度目の助演男優賞を受賞したクリストフ・ヴァルツとのエピソードが実に興味深かった。

『ジャンゴ 繋がれざる者』は、元奴隷のジャンゴが、妻を救い出すために賞金稼ぎとなり、過酷な戦いに挑むという、タランティーノ印のマカロニウエスタンだ。主人公ジャンゴ役にジェイミー・フォックス、ジャンゴの相棒となる元歯科医の賞金稼ぎシュルツ役にクリストフ・ヴァルツが扮する。ふたりについてタランティーノは「ふたりは人としても役者としても全く個性が違う。だからこそ、最高の西部劇コンビが生まれたんだ」と太鼓判を押す。

奴隷制度をモチーフにした本作では、劇中で“ニガー”という言葉が137回も登場する。言わばいろんなタブーに斬り込んだ意欲作だが、いろんな人種の役者やスタッフが混在した現場だけに苦労も多かったようだ。「本作ではアメリカの歴史における原罪というべき奴隷制の罪を描いている。だからこそ、現場では白人黒人それぞれが慎重になり、ある種の緊張感がずっと続いていた。でも、クリストフはオーストリア人で、奴隷制が母国の歴史ではないということもあり、そういう雰囲気を緩和してくれたんだ。彼が『もう150年前の史実なんだから、みんな悩まずに早く映画を作ろうよ』と、全員の背中を押してくれたよ」。

ヴァルツが手にしたふたつのオスカー像は、両方タランティーノ監督作なのだから、ふたりの間の信頼の深さは言うまでもない。ちなみに、オーストリア生まれのヴァルツだが、『イングロリアス・バスターズ』ではナチス・ドイツの親衛隊大佐役を、本作ではドイツ人の賞金稼ぎ役を演じた。「クリストフは、僕自身も本作の内容で悩んでいた時、こう言ったんだ。『イングロリアス・バスターズ』の時、ドイツ人にこの映画を作ることはできないと、あなたは言ったじゃないかと。第二次世界大戦時のドイツを、あなただからこういうふうに描けると。だから、今回の『ジャンゴ』でも、自分が自分の足かせにならないように、自由に作れよとね」。今回のオスカーの栄誉は、ふたりの信頼関係の賜物だったのかもしれない。

また、ご存知、日本の任侠映画を愛するタランティーノは、『仁義なき戦い』シリーズの深作欣二監督のエピソードについても語ってくれた。英語で直訳が難しい“仁義”について、深作監督自身に直接尋ねたと言う。「深作監督はこう仰った。世界で一番したくないことだけど、しなければならないこと。それが仁義だと。この作品に照らし合わせれば、やっと自由の身になったジャンゴが、また地獄に戻っていく。なぜなら、愛する女性を一分なりとも奴隷の身に落としたまま、自分は生きていけないと思うから。まさに仁義なんだ」。

親日家のタランティーノは、終始ご機嫌で、いろんな質問にアグレッシブに答えてくれた。本作は、ただのマカロニウエスタンではない。奴隷制というアメリカの過去の最大の汚点を糾弾しつつ、着地点は、人が愛のために命を懸けるという純度の高いラブストーリーになっているところが最高だ。【取材・文/山崎伸子】

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