寺島しのぶ、天国の若松孝二監督に感謝「監督の作品に出ると子供ができる」
鬼才・若松孝二監督の遺作となった『千年の愉楽』が3月9日に初日を迎え、テアトル新宿で舞台挨拶が開催。満員の会場が大きな拍手で待ち受けるなか、寺島しのぶ、高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太、佐野史郎、井浦新が登壇した。若松監督作『キャタピラー』(10)で第60回ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞、本作でも主演を務めた寺島は「ここに監督がいらっしゃると思って舞台挨拶に立ちます。監督の魂がこもった現場は、私の宝物です。皆さんにとっても本作が宝物になってくれれば」と、晴れやかな笑顔で万感の思いを語った。
2012年10月に不慮の事故で急逝した若松監督(享年76歳)。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』(08)、『キャタピラー』(10)、など圧倒的なパワーに満ちた作品を作り続け、映画を武器に社会のタブーに挑んできた。『千年の愉楽』では、産婆として人々の命の始まりを見届けてきたオリュウノオバと彼女に取り上げられてきた人々の物語がつづられる。オリュウノオバ役を絶大な信頼と共に任された寺島は「スタッフ、役者の全てを包み込む大きな海のような人。心の大きな、優しいボスでした」と在りし日の若松監督を偲んだ。
また寺島が「監督はこの3人と組むのをすごく楽しみにしていた」というように、若手俳優の高良、高岡、染谷が若松組に参加した本作。高良は「初めて若松監督とお会いした頃、僕は気持ち的にモヤッとしたものを抱えていて。監督に『焼き鳥屋に行こう』と誘ってもらって、若い頃からの話をたくさんしてもらった。ものすごくパワーをもらいました」と受けた刺激について告白。テストなし、早撮りの若松監督らしく、現場に着くなり寺島との絡みのシーンに挑んだというのが染谷で、「中学生の時に、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』のオーディションで初めて若松監督にお会いして。監督の現場は本当に幸せでした」と思い出を教えてくれた。
井浦は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)程』以降、連続5作品の若松監督作に出演している。「本作が公開される映画館は自分にとって聖域のような場所なので、あえてネクタイをしてきました」と並々ならぬ意気込みで現れ、「愛を持って、厳しくしてくれた人。それに負けじと、芝居で喧嘩をするつもりで、監督に挑んでいった。監督は、全てを受け止めてくれました」と目を細めた。若松組常連の佐野も「監督が『ちょっと今度の映画は良いんだよ』と満足していたのを覚えています」と懐かしむように笑顔を見せていた。
また寺島は監督とのこんなエピソードも明かしてくれた。「監督は『僕の映画に出た人には、必ず子供ができるんだ。鬼気迫るものがあると、子供ってできるんだ』とおっしゃっていて。その後、私は本当に子供ができて!監督はすごく喜んで、一番に電話をくれました」と振り返ると、井浦も佐野も「僕もそうでした」と同調。寺島は「監督のエネルギーが全部、作品に出ちゃうんでしょうね。子供に関しても、本当に監督に感謝したい」と話すなど、監督のパワーに脱帽だった。
それぞれが若松監督との思い出を笑顔で語り、いかに若松監督が人に愛され、そして人を愛したかが伝わる熱い舞台挨拶となった。若松監督の魂は、スクリーンに刻み込まれた。是非とも劇場で、その愛とパワーに触れてほしい。【取材・文/成田おり枝】