ルーマニア初のカンヌ映画祭女優賞に輝いた新鋭女優を直撃

インタビュー

ルーマニア初のカンヌ映画祭女優賞に輝いた新鋭女優を直撃

ルーマニアの修道院で実際に起きた、悪魔祓いの事件をモチーフにした問題作『汚れなき祈り』(3月16日公開)。本作で映画初出演を果たし、第65回カンヌ国際映画祭でルーマニア映画として初の女優賞に輝いたコスミナ・ストラタンとクリスティーナ・フルトゥルが来日。ルーマニア正教徒であるふたりが、宗教のタブーを扱った本作にどう挑んだのか、インタビューをして撮影秘話を聞いた。

脚本を手掛け、メガホンをとったのは、『4ヶ月、3週と2日』(07)で、これまたルーマニア映画初のカンヌ映画祭パルムドールに輝いたクリスティアン・ムンジウ監督。『汚れなき祈り』では、若きふたりを女優賞に導き、自らも脚本賞を受賞した。まずはふたりから、女優賞を受賞した時の感想から聞いてみた。授賞式ではかなり舞い上がったと言うクリスティーナ。「立ち上がり、ムンジウ監督にキスをしたわ。感情的にはいろいろあったけど、それはどこかへ行ってしまって。でも、気づいたらスラスラとスピーチをしていたみたい。自分の人生の大事な瞬間、あんなふうにきちんとやりこなせた自分に驚いたわ(笑)」。

コスミナもうなずきながら「私は到底賞なんてもらえっこないと思っていたの。でも、実際、自分がそれを手にしてみると、なかなか対処できなくて。クレイジーな瞬間だったし、とても幸せに思ったわ。クリスティーナがすごく理路整然とスピーチをしたので、私は冗談を言って逃げたの(笑)。忘れられない思い出よ」。

本作はかなりヘビーでシビアな物語だが、彼女たちの素顔はとても朗らかで明るく、そのギャップに好感が持てる。彼女たちが演じたのは、ルーマニアの孤児院で育ち、固い友情で結ばれた幼なじみだ。ヴォイキツァ(コスミナ・ストラタン)は修道院で神の愛に目覚めるが、アリーナ(クリスティーナ・フルトゥル)は昔のようにふたりで暮らすことを望んでいる。やがてアリーナは精神のバランスを崩し、悪魔祓いをされることになる。

ルーマニアはもともと信仰深い国柄だそうで、実際にふたりともルーマニア正教徒だ。では、本作の物語を、彼女たちはどう受け止めたのか? クリスティーナは「ノンフィクション本は読んだけど、それ以外のリサーチは敢えて何もせず、忠実に脚本ありきで演じた」と語る。「タブーに挑んだ作品で、特に私の役はかなりクレイジーな役柄だったから、最初は危険なテリトリーに足を踏み入れてしまうかもしれないという危惧を感じたの。でも、出演を決断したのは、俳優なら寛容性をもってどんな役柄でも演じ切るべきだと思ったからよ」。

彼女は本作に出演した後、宗教観はさほど変わらなかったが、映画を撮り終わった後、教会に入ることに少し躊躇したそうだ。「私はアリーナという役をとても愛していたので、この教会の人たちがアリーナに何をしたのか、つまり信心深すぎる人たちがどういうことをしたのかと考えてしまったの。そのうち、彼女は彼女、私は私と、気持ちを切り替えられるようになったけど、いまだに宗教に関して疑問を投げかけているわ。宗教が形式だけにとらわれ、意味を失ってしまうのはとても大きな問題だと思っているし」。

コスミナも神妙な面持ちで同意する。「確かに宗教に対してより考えるようになったわ。本作のような映画に出た後で、今までと全く同じ状態でいるなんて不可能なことだと思う。より多く問題を投げかけるようになったし、以前ほどルーマニア正教に寄りかからなくなったというか、考え方が変わったのかもしれない。宗教に対して誠実な態度で接することは大事だけど、そこにどういう意味があるのかも考えてしまう。映画を見た後、より模索したり、思索にふけることが増えたわ」。

映画初出演ながらも、ムンジウ監督の下で真摯に役やストーリーと向き合い、迫真の演技を披露したふたり。宗教に対する価値観をも揺さぶられたのは当然のことかもしれない。静かで力強いルーマニア初の衝撃作を、しかと受け止めてほしい。【取材・文/山崎伸子】

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