『風立ちぬ』V3で強し!クチコミの観客とリピーター続出の理由とは?
宮崎駿監督作『風立ちぬ』(公開中)の勢いが止まらない!興行ランキングでは3週連続1位に。しかも、櫻井翔×北川景子出演の人気ドラマの映画化『謎解きはディナーのあとで』(公開中)、ジョニー・デップ出演作『ローン・レンジャー』(公開中)、仮面ライダーの新作『劇場版 仮面ライダーウィザード イン マジックランド』(公開中)という話題作を抑え、V3をマークしたのだ。メガヒットの要因は、宮崎駿のネームバリューと作品自体のクオリティー、荒井由実の主題歌「ひこうき雲」のマッチング度の高さなどが挙げられているが、クチコミ効果とリピーターを続出させる理由は他にも多数ありそうだ。
そもそも、公開前の会見で、鈴木プロデューサーが、本作が宮崎監督の“遺言”だと発言したり(後に、完成会見で宮崎監督自身がやんわりと否定)、宮崎監督が「自分の作品で泣いたのは初めて」と告白したりと、これまでにない気合の入れようが、じわじわと伝わっていた。その結果、初週は土日2日間の成績だけで、動員74万7451人、興収9億6088万5850円という立派な数字は予想通り。公開3週目の16日間で、すでに累計動員350万人、累計興収43億円という、驚異的な数字をたたき出している。
ちなみに、興収で100億円超えとなるには、クチコミによる新規の観客以外に、リピーター数も大いに関わってくる。まず、映画レビューで目立つのが、主人公の声を当てた庵野秀明についての意見だ。肯定派、否定派がくっきりと分かれ、見終わった後、「庵野秀明の声はありかなしか?」を討論したくなる。豪華声優陣は、ヒロイン役の瀧本美織をはじめ、西島秀俊、西村雅彦、風間杜夫、竹下景子、志田未来、國村隼、大竹しのぶ、野村萬斎といった芸達者な俳優陣ばかりなので、庵野の独特のトーンは一層異彩を放っている。そこが一番のやり玉に挙げられているが、いずれにしても盛り上がっている証拠である。深読みすれば、『新世紀エヴァンゲリオン』ファンも、声優・庵野秀明の真価を問うべく、劇場へ足を運ぶのではないのだろうか。
また、『風立ちぬ』は、1回ではなく2回見て「確かめたい」と思わせる要素がたくさんある。本作で斬新なのは、人間の声などで効果音を作っている点だ。実は、宮崎監督はジブリ美術館で上映された短編アニメ「やどさがし」で同じ試みをしているが、長編映画で使うのは初となった。飛行機のプロペラ音から蒸気機関車の蒸気やエンジン音、関東大震災の地響きの音まで、こだわり抜いて録音されている。実際、1度見ただけでは、物語に集中していて、細部の音にまで気が行き届かないので、今度は耳をそばだてて聞いてみたくなる。音以外でも、関東大震災で人が逃げ惑うシーンなど、群衆の画では細部の人間ひとりひとりが丁寧に描かれていて、それらももう一度、じっくりと見てみたくなる。
当初は“大人ジブリ”と言われる作風のため、小さな子供のいるファミリー層の集客が心配されたが、その分、普段アニメ作品を見ない高齢者層の心を鷲づかみし、平日の動員も好調だ。レビューの評価は全般的に高く、MovieWalkerの見てよかったランキングでも3週連続1位に君臨している。
このまま行けば、宮崎監督は、アニメ映画の歴代ランキングの順位をまた自ら更新しそうである。現在の歴代1位が『千と千尋の神隠し』(01)の304億円、2位が『ハウルの動く城』(04)の196億円、3位が『もののけ姫』(97)の193億円で、この上位3位に食い込む可能性も。それにしても、宮崎駿ブランド強し!この社会現象となる勢いは、まだまだ続きそうで、今後の動向を見守っていきたい。【取材・文/山崎伸子】