北乃きい、女優は通過点。本当の夢は「言えないです」
北乃きいが、『コドモ警察』(13)、『爆心 長崎の空』(公開中)に続いて放つ映画は、「ぼくんち」や「毎日かあさん」の西原理恵子の自伝的物語の映画化『上京ものがたり』(8月24日公開)。本作で演じたのは、絵の道を志す美大生の菜都美役。どんな壁にぶち当たっても夢を諦めないヒロイン像に、北乃は自分自身を重ねていったという。北乃にインタビューし、本作の撮影秘話から、揺るぎない自身の夢について語ってもらった。
菜都美は、水商売をしながら美大に通う苦学生だ。劇中では「人生七転び八起き」という言葉も飛び出すが、北乃自身はこれまで壁にぶち当たった経験はあるのか?と尋ねると、ミスマガジン2005グランプリを受賞し、デビューした当初のエピソードについて話してくれた。「10代の頃、『そんなミスマガの笑顔や、グラビアの笑顔なんていらねえ!』と、みんなの前でよく怒鳴られました。今でもそうだし、きっと菜都美よりも怒鳴られることは多いと思います」。
ののしられても平気なのか?と聞くと、「他に夢があるから」と、意外な答えが返ってきた。「女優になることが夢だったら、1つ1つに挫折していたかもしれない。でも私には、小さい頃からの夢があるから、その通過点で何を言われても気にならないんです」。ということは、女優というのは、本当の夢への通過点ということか。では、彼女の本当の夢とは何なのか?
「それは言えないんです。ただ、今の業界とは関係がないものです。その夢を叶えるまでに、いろんなことをしていきたいとは思っています。そういう意味で、女優業は通過点ですね。自分が成長していけるという意味があるのでやっています。アーティスト活動も、芝居に活かせると思って始めました。そしたら去年、舞台で歌を歌う機会があり、ここでその経験が活かせたと思いました。いつかミュージカルもやってみたいので、もう少し歌を続けようかなと。菜都美は、自分の夢に対して罵倒されて、それでもめげないからすごいと思います」。
夢へと邁進していく支えは自分自身だと力強く語る彼女。「祖母が亡くなってから変わりました。これまでは、おばあちゃんが喜ぶと思ってやってきたので、いなくなった後は空っぽになり、試写会の時、遺影を置きたいと思ったくらいです。何のために頑張って良いのかわからなくなって、もう止めようとも思ったんですが、1ヶ月くらいたって、誰のために頑張るというのを、人ではなく自分に置き換えたら、仕事に対する責任感も変わりました。趣味から仕事に変わったというか、生きていくために、食べていくためにやろうと。アーティスト活動を始めたのはその1年後です」。
その分岐点に来た仕事が、ドラマ「トイレの神様」(11)だった。「ちょうどおばあちゃんがが亡くなり、これから頑張ろうと立ち上がった時だったから、この役はできないかもしれないと思いました。でも、プロデューサーさんが『役者が、自分の過去に重なる作品に、やりたくないと思いながらも出演した時は、本当に輝くし、作品もすごく良いものになる』と言われて。『それならやらせてください』と、やったんです。その前に14年間飼っていた犬が亡くなった時も、『いぬのえいが』(05)をやったりと、自分の暮らしとリンクするものが多いですね」。
いろんな思いを抱えて出演した作品は、その後のキャリアにつながっていく。「そういう意味では、10代の頃より人生経験があるから、芝居も広がるのかなと。その時も、結果的には良かったと思いました。おばあちゃんの前で『私は東京で歌を歌って頑張ってるよ』とギターを弾きながら歌うシーンがあり、自分のおばあちゃんへの思いとリンクして、想い出深いシーンになったから。また、このドラマのおかげで、海外の監督からお声をかけていただきました。その監督は『トイレの神様』を見てオファーしてくださったそうで、本当にうれしかったです。いろんな経験が芝居に活かされるのは良いことかもしれません」。
ひとりで上京し、さまざまなトラブルや人間関係のジレンマに悩みながら、夢を諦めず、自分を信じて前向きに生きていく菜都美。その姿が、たくましく夢へと闊歩していく北乃きいとオーバーラップした。【取材・文/山崎伸子】