『許されざる者』の柳楽優弥、「しごかれて幸せ」と語った理由とは?
ロングヘアとヒゲをたくわえ「5人殺してるんだぜ」とワイルドなセリフを吐く柳楽優弥。こんなに野性味にあふれ、光っている彼を、今まで見たことがない。その出演作とは、渡辺謙主演、李相日監督作『許されざる者』(9月13日公開)のこと。恐れ多くも、クリント・イーストウッド監督・主演の第65回アカデミー賞作品賞受賞作を、日本を舞台に置き換えて映画化した野心作だ。本作で渡辺謙や柄本明と堂々渡り合った柳楽にインタビューし、ビシビシしごかれたという李組の現場について話を聞いた。
渡辺謙が扮するのは、愛する女性と出会って以降、戦うことをやめていた幕府軍残党・釜田十兵衛役。彼は、かつての仲間・馬場金吾(柄本明)から、顔を切りつけられた女郎の敵討ちの話を持ちかけられ、やむを得ず再び刀を手にする。柳楽は、十兵衛と金吾と道中を共にする沢田五郎役をオーディションで勝ち取った。「もし、運も実力と言うのなら、僕の実力は今回、運しかなかった。この作品に参加させてもらえたことと、李監督の演出を受けられたことが、僕の運の全てです」。
柳楽は、言葉を探るようにゆっくりと今の思いを伝えていく。「そう思っていなかったら、李監督に対して、もっとやってやる!とは思わなかっただろうし、あそこまで追い込まれることもなかったと思います。セリフだけは絶対に間違えなかったし、一生懸命できることは全部やらなきゃという思いはありました」。
設定上、渡辺謙と柄本明との共演シーンが一番多かったが、最初はかなりのプレッシャーを感じたそうだ。「普通に怖かったです。でも、現場に入ってみたら、みなさん人柄が素敵。謙さんはとても優しい方で、いろいろと周りを見ていました。ある時、僕がタバコを吸おうと、灰皿を探していたら、謙さんが携帯灰皿を渡してくれて。『うわっ!謙さんが僕に灰皿を!』と感動しました」。
撮影が進むにつれて、共演陣との交流も深まっていった。「謙さんは、毎晩食事に誘ってくれて、いつもごちそうになりました。料理が好きな方で、ご自身で鍋などを作ってふるまってくださったりして。また、柄本さんもすごく好きで、謙さんとふたりで現場にいてくださると、すごく安心できました。おふたりの前だと、良いところを見せようとも思わないし。演技の話はあまりしなかったけど、こっちが聞くと、答えてくれたりしました。心に響いた言葉は、たくさんあります」。
李監督の演技指導については「厳しくしてもらえる現場にいられることが幸せだと強く思いました」と清々しい表情を見せる。「李監督の現場は、他と全然違うと、謙さんたちが言っているくらいだから、僕みたいな小僧がそこに入れば、思うことはたくさんありましたよ。だから僕なりに考え、李監督の言うことだけを聞くようにしました」。
クライマックスで、五郎が人間の死と対峙し、狼狽する表情が印象的だ。「とても大事なシーンでしたが、あそこに限っては李監督が『このシーンは良かったね』とほめてくれたんです。監督は、普段は全然ほめないし、ほめても意味がないことをわかっているのかもしれません。少なくとも僕はほめられると良くないタイプなので。まあ、多少はほめられたいですが(苦笑)。だからこそ、李監督のその言葉は重くて。現場ではなくて後から飲んでいる席でさらっと言われたんですが『もう一度言ってほしい!』という感じでした」。
柳楽にとって、多くのものを吸収できた意欲作『許されざる者』。「間違いなく、この作品をきっかけに、前に進むことができていると感じています。きっと今後の作品で、自分がどこまで学べたのかがわかるとも思います。いろいろな自分の考えを変えてくれた作品と監督です」。また、李監督作に出演したいか?と尋ねると「もちろんしたいです。でも、その時、『許されざる者』以前の柳楽優弥と一緒じゃないかと言われたら終わりですから、絶対に前進します!」と、力強く締めくくってくれた。
ご存知、『誰も知らない』(04)で第57回カンヌ国際映画祭で史上最年少14歳で最優秀男優賞を受賞した柳楽優弥もいまや23歳。着々とキャリアを重ねてきたが、『許されざる者』は、また彼にとってエポックメイキングな作品となりそうだ。【取材・文/山崎伸子】