柄本明、極寒ロケに「苛酷であればあるほど燃える」
第65回アカデミー賞作品賞で4部門受賞となったクリント・イーストウッドの監督・主演作を、『悪人』(10)の李相日監督が日本を舞台に作り上げた『許されざる者』(9月13日公開)。本作で、渡辺謙扮する主人公・釜田十兵衛の仲間・馬場金吾役を務めた柄本明にインタビュー。壮絶な極寒ロケの舞台裏を語ってもらった。
幕府軍残党の十兵衛は、愛する女性と出会って以降、戦うことをやめていた。ある日、かつての仲間・金吾から、暴力的な支配者(佐藤浩市)に切りつけられた女郎の敵討ちの話を持ちかけられ、再び刀を手にする。完成した映画を見た感想について柄本は「遠い距離感を感じたというか、映画が向こうへ行ってしまったという感じがしました。ほめすぎかな(笑)」。
零下10何度だったという北海道ロケは、苛酷を極めた。特に柄本は、全裸で激しい拷問を受けるシーンも。柄本は「でもね、幸せなことですよ」と柔和な笑みを浮かべる。「その苛酷さにはちゃんと理由があるから。理由さえあれば、苛酷であればあるほど、我々ってどこか燃えるんじゃないかな」。
十兵衛と金吾の賞金稼ぎの旅の水先案内人を務めるのが、柳楽優弥扮する沢田五郎だ。柳楽は、五郎役を野性味たっぷりに好演し、新境地を開拓した。「柳楽くん、良いでしょ?」と、うれしそうに同意を求める柄本。現場では李監督にかなり絞られたと、会見で激白していた柳楽だが、柄本は彼についても「幸せなことだよね」とうなる。「最初から自分自身のハードルを低くして『はい。できます』みたいなことをするよりも、ハードルを高くして臨み、いつまで経ってもそのハードルを飛べないともがく姿が美しいと思う。それって映画の特権じゃない?」
柄本と李監督は、『スクラップ・ヘブン』(05)、『悪人』に続き、本作が3作目のタッグとなった。「李監督は、どんどん大きくなっている感じがします。いちばん最初に(李監督の監督デビュー作)『青chong』(01)を見た時から『これは大物だな』と思っていました。あの人自身、その頃から何も変わらないんだけど、今回は、ちょっと驚きました」。李監督の秀でている点を、柄本はこう分析する。「やっぱり常に人間を見ているってことじゃないかな。『悪人』の時もそうだったけど、『許されざる者』でも、“悪人”の先にあることをやっている。そこで描かれるのが人間というものだと思う」。
本作について「どこが良いってことは、言葉では言えないんだよね」とも言う。「“洒落た映画”“泣けた映画”とか、言葉でわかりやすく集約できないものが映画なんだと、僕は思っているから。この前も、ボリス・バルネットの『国境の町』(33)を見たんだけど、いやあ、すごかったね。そういう映画を見た時、言葉なんていらないんだよ。話がどうのこうのとか、そんなことではないんだ。本作もまさにそう。ただ、非常に大きなものを感じて良かったです」。
数多くの映画やドラマで、味わい深い個性を発揮してきた柄本明。とりわけ、『許されざる者』の金吾役に漂う哀愁は、十兵衛の復讐心に説得力を与え、クライマックスに一層の深みを与えている。李監督の指揮下で、渡辺謙や柄本明たち名優たちが火花を散らせる本作を見て、日本映画の底力を感じてほしい。【取材・文/山崎伸子】