是枝裕和監督、福山は「キャッチャー型」、リリーは「化物」
是枝裕和監督による第66回カンヌ国際映画祭の審査員賞受賞作『そして父になる』で、福山雅治と共に子供の取り違え事件に翻弄される父親役を演じたリリー・フランキー。がさつでお調子者だが、子煩悩でおちゃめな面を持つ父親像は、福山扮するエリートの主人公の気難しさをより一層際立たせ、助演として申し分のない存在感を発揮している。是枝裕和監督とリリーにインタビューし、今だから話せる撮影裏話を聞いた。
6年間大事に育ててきた息子が、取り違えられた他人の子だった!そんな悲劇に向き合う2組の親子の葛藤を、丁寧につむぎ上げた『そして父になる』。今回、是枝監督は、2つの家庭を対照的に活写した。「撮影したけど、使わなかったセリフがあるんです。家出をした息子を迎えにきた良多(福山雅治)に、雄大(リリー)が、『子育てはピッチャーじゃなくてキャッチャーなんだ』と言う。福山さんの父親が投げたい球を投げるピッチャー型、リリーさんの方がどういう球が来ても受け止めるキャッチャー型。全く違うタイプを描きたいと思いました」。
さらに、福山については「意外だったのは、福山さん本人はキャッチャー型だったこと。いろんな受け止め方ができて柔軟なんです。会う前のイメージでは、自分の演じたい演じ方がもっと明快にあるのかと思っていました。でもむしろ受け止め型で、そこは助かりましたし、驚きでもありました」と指摘。リリーも「最初、スクリーンに福山雅治が出てきたと思うかもしれないけど、後半はそう思って見ない。そこが彼のすごさです」とたたえた。
リリー扮する雄大は、3人の子供を持つ陽気な父親だ。子供との入浴シーンでは、口に含んだ湯船の湯を噴水のように口からパーッと吐き出し、子供たちを大喜びさせる姿が実に微笑ましい。あのシーンはアドリブなのかと思ったら「是枝さんからかなり細かく演出されました。あれは、普段、是枝さんが家でやっていることなんでしょうね」と意外な答えが返ってきた。是枝監督は「ええ(笑)。子供と一緒にお風呂に入った時にやって、すごく喜ばれたんですよ。でも、子供が母親と入った時に、あれをやって!とせがんだらしく、後から怒られました。汚いって」と照れ笑いしながら「でも、素晴らしいですよね、あのリリーさん」と絶賛。
リリーは、現場ではアドリブは一言もなかったと言う。「監督の言われるがままにやりました。監督にゆだね切っていたんです。現場は子役ゾーンと役者ゾーンに分かれてましたが、僕は子役と同じ気分でした。是枝さんの作品のファンだったから、ずっと現場を見られる映画の体験ツアーに来ているって感じで。また、これは自分が尊敬する映画監督に限らず、他のクリエイターに関しても思うことですが、やっぱり良いものを作る方法は、しつこく丁寧に思いを続けてやっていくしかないんだなってことです」。
是枝監督は、そんなリリーの演技に感心したそうだ。「一言で言うと、化物だと思いました。すごいなあと。アドリブはないとおっしゃいましたが、子供を抱っこしながらセリフを言うところなんて、意識の分散の仕方が本当に素晴らしい。『セリフを言うぞ』という感じではない。見事でした」。リリーは「子供たちが巨匠みたいなアドリブを挟んでくるので、それを受け止めていくだけなんです。是枝さんは、俺が何も考えていないことをいいように解釈してくれるんです」と恐縮。是枝監督は「子供たちが突発的に出ても全部対応してくれるので、いつまでも撮っていたい感じでした」とさらにほめ称えた。
是枝監督の采配の下、福山雅治、リリー・フランキー、尾野真千子、真木よう子たちが織り成す上質な人間ドラマ『そして父になる』。すでに230の国と地域での海外配給が決定している本作だが、いよいよ今週9月28日(土)より公開(9月24日~27日先行公開)となる。【取材・文/山崎伸子】