アルノー・デプレシャン監督、ベニチオ・デル・トロとマチュー・アマルリックのために書いた新作『JIMMY P』を語る
『トラフィック』(00)で第73回アカデミー賞助演男優賞を受賞した実力派で、“目で妊娠させる男”の異名をとるベニチオ・デル・トロと、『007 慰めの報酬』(08)で悪役を演じ、第63回カンヌ国際映画祭で監督賞・国際映画批評家連盟賞受賞の『さすらいの女神たち』(10)を手掛けた監督でもあるフランスの個性派俳優マチュー・アマルリック。この異色のコンビが放つカンヌ国際映画祭出品作『JIMMY P: PSYCHOTHERAPY OF A PLAINS INDIAN』が、第51回ニューヨーク映画祭で上映され、アルノー・デプレシャン監督がスカイプインタビューに応じた。
同作は、第二次世界大戦時にフランスの戦地に出向き、トラウマや頭痛、聴覚障害など原因不明の病に侵されカンザスの軍事病院に送り込まれたベニチオ扮するインディアンのジミーと、インディアンに興味を抱く人類学者兼精神分析医で、ジミーのために軍事病院に出向いたニューヨーク在住のフランス人ジョージが織りなす友情の物語だ。
「僕自身、小さい時はインディアンかカウボーイになるのが夢で、フランスで本のタイトル『Reality and Dream: Psychotherapy of a Plains Indian』 に惹かれて手に取ったのが始まりです。でも同作を映画化しようと思ったのは、もともと心理学にも興味があっただけではなく、インディアンとニューヨークに住むフランス人精神科医という、普通では出会うことがないふたりが患者と医師という関係で出会い、そして友情を育んでいくという内容に惹かれたからです。ジョージも訳ありの人物で、ジミーの心の闇を紐解いていくことで、彼との信頼関係を築くとともに、自分の中の闇も暴き出していくというプロセスが魅力的でした。僕自身はカウンセリングを受けた経験がないので、いくつかの文献や映画を見て、勉強しました」と、脚本を手掛け、メガホンをとるに至ったプロセスを語ってくれた。
マチューとアルノー監督は、『キングス&クイーン』(04)でタッグを組んだ過去があり、マチューには特別な才能を見出していたというアルノー監督だが、ふたりの超個性派俳優を起用した理由については、「僕はこれまで、脚本を書く時に特定の人物を描いて描くということはしてこなかったんです。だけど今回は例外で、ベニチオとマチューを頭に描いて脚本を書きました。会ってすぐに僕たちは友達になったし、ふたりともとても素晴らしい俳優です。ふたりの抜群の相性は、映画の中でも感じ取れると思います」と語り、キャスティングに自信をのぞかせた。
スタジオでの撮影が好きではないというアルノー監督は、マチュー扮するジョージの診療室など、各所のディテールにこだわりを見せている。「独特な音楽の使い方に、アルフレッド・ヒッチコックの手法が見受けられる」との指摘については、「もちろんヒッチコックの作品は見ていますが、特に意識はしていないと思います。それよりも“影響を受けた”という点では、1度だけマーティン・スコセッシ監督にお会いするチャンスがあった時に、『ある時代の映画を作るときに、その時代に実際に流れていた音楽に無理をしてこだわる必要はない。自分の好きな音楽を使えばいいんだ』と言われたことが、今回の映画に生かされています。この作品で描かれている1950年代初頭の音楽があまり見つからなかったので、自分がイメージした音楽を使いました」と音楽へのこだわりものぞかせた。
フランス人の監督とマチュー、それにインディアンを演じているべニチオが英語を話し、アメリカで撮影された英語の映画であることについても、「ある意味ギャンブルですよね。でも、それが私の作品の醍醐味なんです。国籍や言葉を超えたインターナショナルな関係という意味でも、この作品に惹かれていたので、あえてリスクを取りました。ジミーと自分はまったく違う人物ですが、ある意味で自分を投影させたキャラクターでもあり、誰でもジミーのようになりえるんです。ジミーがユニバーサルな存在であるという意味でも、国境を越えて観客が興味を持ってくれると思っています」と、アルノー監督は語った。
ヨーロッパから抜け出して、世界のマーケットに乗り込んだ自身の心の旅が投影されているような、とても普遍的な作品に仕上がっている。【取材・文/NY在住JUNKO】