早くもオスカーの呼び声!?ベン・スティラー監督、妄想男が主役の『LIFE!』を語る
『ズーランダー』(01)や『トロピック・サンダー 史上最低の作戦』(08)で主演、監督、脚本を務めたベン・スティラーがメガホンをとった『LIFE!』(全米12月25日公開、日本2014年3月公開予定)が第51回ニューヨーク映画祭でワールドプレミア上映され、ベンのほか主演のクリステン・ウィグ、脚本家のスティーブ・コンラッド、プロデューサーのスチュワート・コンラッドとジョン・ゴールドウィン、プロダクション・デザイナーのジェフ・マンが記者会見に応じた。
日本ではなかなかアメリカン・ジョークが理解しにくいためか、ベンの出演作は苦戦することも多いが、アメリカ、特にニューヨークでのベンの評価は高く、試写会場には3時間も前からメディアの行列ができ、その注目度の高さをうかがわせた。
同作は、父親の死をきっかけに、あらゆる場面で空想にふけることで現実から逃避し続けてきたLIFE誌のフォトエディターでマネージャーのウォルター・ミティが、同誌存続の危機に直面することで現実の世界に飛び込んでいく感動のストーリー。憧れの同僚チェリーにクリステン・ウィグ、母親役にシャーリー・マクレーン、旅する写真家にショーン・ペンという豪華キャストが脇を固めている。
オリジナルは、1939年に出版されたジェームズ・サーバーの短編小説に基づいて製作されたダニー・ケイ主演の『虹を掴む男』(47)。同作のプロデューサー、サミュエル・ゴールドウィンを祖父に持つジョン・ゴールドウィンをはじめ、この作品をリメイクしようという動きは以前からあったものの、スティーヴン・スピルバーグ監督やロン・ハワード監督、主演にはジム・キャリーなどの名前が挙がりながら、実現には至っていなかったという。
その作品をベンが手掛けるようになったのは、「脚本家のスティーブがこの話を持ってきてくれた時、まさに自分がチャレンジしたいと思っていた映画になると思ったんだ。オリジナルの原作とはかなりかけ離れているし、今回は、ミティがなぜ夢見る人なのか、そして自分とは何なのかを探すきっかけになった点などで、自分とのつながりを感じ、感情的に共感できるものがあった。そして皆が僕にそれをやって欲しいと思ってくれたし、とても興味を持ってくれた。ミティは現代の人物であり、かかあ天下の妻から逃げるために夢に浸るのではなく、まじめに働いている人物で、雑誌存続の危機という現実に直面していくことで、以前とは同じ自分ではいられないことを認識するっていう展開が気に入った」
「コメディでありながら、ミティの心の旅を追うドラマティックなストーリーであることも魅力だったけど、スティーブが、僕ら世代の人たちが直面している現実をこの作品に織り込んでくれたことが大きいと思う。時代はアナログからデジタルになり、僕たちはまさにその過渡期を生きている。活字の出版物は激減し、代わりにオンラインの時代になった。雑誌の世界も映画の世界も同じで、時代はどんどん変化していく。そんな変換期にあってこの映画を製作できるのは、とてもタイムリーだと思ったし誇りに思う」と経緯を語ってくれた。
監督と主演のバランスに質問が及ぶと、クリステンが「私が答えるわ」と注目を横取りして会場を沸かす場面もあったが、「確かに両方は難しい。作っていくプロセスで、とにかくいいスタッフに恵まれたことが一番。お互いの信頼関係が成功のすべてだと思う。よく映画のトーンについても聞かれるんだけど、実際に編集して観てみないとわからないんだ」と真顔でスタッフたちを絶賛しながら回答するベン。しかし、物語の軸となるチェリー役のクリステンとの抜群の相性を聞かれると、「撮影前に肉体関係を持ったからね」とさらりとジョークでかわす余裕も見せた。
同作で一番大変だったのは、現実と空想のバランスだったという。「ファンタジーであると共に現実のドラマがあるわけで、ふたつがつながってストーリーを展開しなくてはいけない。空想のシーンでは、ミティの本質や隠されたもの、これからミティの内面に何が起こるのかを描き、それを現実と結びつくようにするのも難しかった。夢見るファンタジーで瞬間瞬間に現実をストップさせるとき、観客はその続きを見たくなるものだ。だから物語を展開させながら、ファンタジーを入れ込むバランスにはとても苦労したよ。最初の段階では、もっとファンタジーのシーンが多かったけど、脚本の過程でファンタジーを減らす必要があると思った」と、苦労話も語ってくれた。
「現実の世界をクリエイトしたかったけど、ハイパーなファンタジーの中にも、『もしかしたら起こり得るかも』って思えるようなものにしたかった」という空想のシーンでは、「X-MEN」を彷彿させるシーンや、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)の世界など、アッと驚き笑える場面もたくさん盛り込まれており、まさに笑って泣ける感動作といえる。
以前、ベンが大ヒット作『アバター』(09)のナヴィ族に扮してアカデミー賞授賞式のホスト役を務めた際に、「僕たちコメディアンには、ホスト役以外にアカデミー賞の舞台はご縁がない」と本音ともいえるジョークをかましていたが、オスカーの呼び声も高い同作では、主役として授賞式に参加できる可能性もありそうだ。【取材・文/NY在住JUNKO】