斎藤工、監督デビュー後の決意「俳優として一生を全うする気はない」

インタビュー

斎藤工、監督デビュー後の決意「俳優として一生を全うする気はない」

大ヒット中の『抱きしめたい』や『仮面ティーチャー』、人気ドラマ「僕のいた時間」など、2014年もいろんなフィールドでひっぱりだこの斎藤工。第24回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭では、オフシアター・コンペティション部門の審査員として参加しただけではなく、ショートムービー『サクライロ』の監督としてティーチインにも登壇。幼少期から映画に親しんできたシネフィルとしても知られる彼は、俳優という枠に留まらず、多方面で活躍の場を広げている。斎藤にインタビューし、彼が今後目指していきたいステージについて聞いてみた。

斎藤が主演、監督を務めた『サクライロ』は、2012年発売の同名セカンドシングルをモチーフに制作されたショートムービー。彼の原案を、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)や『ゴールデンスランバー』(10)、『悪夢のエレベーター』(09)などの脚本を手掛けた鈴木謙一が脚色し、脚本を担当。斎藤本人がキャスティングやロケ地、衣装などの美術面、撮影などの全てに関わった初監督作だ。まずは、初めてメガホンを握ったきっかけから聞いた。

「東日本大震災の時、役者がすぐにできることは何もなく、歯がゆい思いをしていた時期に、ミュージシャンの方々は音楽の力でアプローチをされていました。僕自身、俳優をしながら音楽に携わることは考えていなかったのですが、何かできることがあるんじゃないかと思った時に、音楽に携わる意義を見出しまして。実際に被災地に行って現場の状況を見て何かできることはないかと考えていた時期に、前々からレコード会社の方から音楽をやらないかと話をいただいていたこともあり、期間を決めて音楽活動をやってみようと決意しました」。

その音楽活動の中で、特典として制作されたのが『サクライロ』だ。画家を目指す青年の恋や挫折、葛藤を繊細に描いた人間ドラマだ。「自分の顔ばかりをいろんな角度で陰影をつけて撮るようなPVは気持ち悪いから、楽曲を切り離したところで、何か作りたいと思いました。ただ、予算も少ないし、撮影日数も3日しかない。そこから、スタッフとして『ゴールデンスランバー』の中村義洋監督のチームが、クリスマスイブから3日間参加してくれることになり、編集もドキュメンタリー『監督失格』(11)の李(英美)さんが立ち会ってくださることになった。監督としてはヨチヨチ歩きでしたが、中枢になってくれた方が、第一線でやっている方々だったので成立しました」。

満を持して監督デビューを果たした斎藤。元々、監督をしたいという思いはあったのだろうか?と尋ねてみると「昔はそういう気持ちがあって、実験的ドキュメンタリーを撮ったりはしていました」とのこと。「でも、色んな監督と仕事上、会ってきて、映画を撮るべき人、監督になるべき人って確実にいるなあと思ったのです。だったら、僕ではなく、その人たちが撮るべきじゃないかと。その思いはずっと変わっていません。だから僕は、撮りたくても撮れない、才能がある人を優先させるべきだと思っています。ただ、才能がある若者がいたとしても、大人たちが彼らにどうやって土俵を作るのか、ということがいちばん問題なんです」。

斎藤は、真摯な表情で、若い才能の受け皿が少ない点を憂う。「僕が10代だった頃は、もっと上の世代の方が、若者を信じて、賭けてくれていました。それがどんどん自分の半径で手一杯の大人たちが増えていってしまったから、若者たちは自分で切り開かないといけなくなった。でも、そうなると、彼らは傷だらけになるんです。だからその接触を避け、『そこまではいかなくてもいいや』という人間が増えていく。その一方で、サッカーに例えるなら、Jリーガーを目指すのではなく、プレミアリーグとかに直結する道を選ぶ人も出てくる。今まで通るルートを無視し、本物に対して直線的に向かう人が増えているような気もします」。

さらに、斎藤はこう続ける。「僕は、東京学生映画祭にも毎年顔を出しますが、学生たちの才能もびっくりするくらい面白いんです。今回のゆうばり映画祭でも、僕は俳優として、この監督のこの作品に出たいと思えるものがコンペで何本かありましたし、監督に直接、交渉もしました。でも、それは俳優としての立場からだけじゃなくて、今後、自分がその人の才能に惚れた時、どう動けるかってことが大事だと思うなんです。惚れ方や愛し方っていろいろとあると思います。僕は、自分が惚れ込んだ作品や監督の援護射撃をしたい。僕は今後、俳優として一生を全うする気はないんです。俳優はこれからも続けていくけど、いろんな立場でお手伝いをしていきたいです」。

斎藤が愛してやまない映画というジャンル。俳優として、近年の勢いは誰が見ても明らかだが、彼の見据えている未来像は、そこだけのフィールドには留まらない。俳優だけではなく、時にはプレゼンターといて、プロデューサーとして、サポーターとして、つまるところは、もっと懐が深い映画人として、今後も自分で道を切り開いていく。その志は、最高にクールだ!【取材・文/山崎伸子】

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